中小企業診断士試験の財務・会計では、経営資源として重要な「資金」に関する内容が問われます。
経営コンサルティングにおいて経営を数字で診断するスキルは必須のため、重要科目と位置付けられています。
財務・会計にはアカウンティング(会計)とファイナンス(財務)があります。
さらに、アカウンティングには外部に報告するための財務会計と、社内で意思決定に活用する管理会計があります。
ファイナンスは、企業活動に必要な資金調達や投資等が主なテーマです。
財務・会計に関する内容は、1次試験だけでなく2次試験の「事例Ⅳ」でも出題されます。
項目 | 1次試験「財務・会計」 | 2次試験「事例Ⅳ」 |
試験スケジュール | 1日目 11:30~12:30 | 16:00~17:20 |
試験時間 | 60分 | 80分 |
試験形式 | 多肢選択式 | 記述式 |
配点 | 100点 | 100点 |
出題数 | 25問 | 4問 |
電卓 | 持ち込み不可 | 持ち込み可 |
合格基準は 1次試験・2次試験とも「全科目の総点数の 60% 以上、かつ1科目でも満点の 40% 未満のないこと」です。
詳しくは後述しますが、1 次・2 次試験ともに計算問題が多く出題されるので、内容を理解しているだけでなく実際に正しく計算できることが重要です。
近年の1次試験における財務・会計の合格率は、11〜20%で推移しています。
▼財務・会計の合格率
年度 | 科目合格率 | ||
令和4(2022) | 13.3% | ||
令和3(2021) | 19.6% | ||
令和2(2020) | 10.8% | ||
令和元(2019) | 16.3% |
下記の表は、中小企業診断士試験の科目別の勉強時間の目安や難易度を一覧化したものです。
財務・会計の難易度は、1次試験の全7科目の中で最も高い部類となっていて、必要な勉強時間も最長です。
▼中小企業診断士試験の科目・勉強時間・難易度
勉強順 | 科目 | 勉強時間(目安) | 難易度 |
1 | 企業経営理論 | 150時間 | 普~難 |
2 | 財務・会計 | 180時間 | 難 |
3 | 運営管理 | 150時間 | 普 |
4 | 経営情報システム | 80時間 | 普~難 |
5 | 経済学・経営政策 | 100時間 | 普 |
6 | 経営法務 | 80時間 | 普~難 |
7 | 中小企業経営・政策 | 60時間 | 普~難 |
ただし難易度はあくまで傾向や目安です。科目別難易度は、個人の学習状況や経験によって個人差が生じやすく、試験年度によっても変化します。
中小企業診断士試験には科目免除制度があり、所定の資格を保有をしている場合などに試験の免除を受けることができます。
財務・会計では、下記に該当する人が科目免除対象者となります。
科目免除については、こちらの記事で詳しく解説しています。
【あわせて読みたい】中小企業診断士試験の免除制度を解説!資格保有・対象科目は?
【参考】中小企業診断協会「中小企業診断士第1次試験他資格等保有による科目免除」
財務・会計は1次試験だけではなく2次試験にも出る重要科目です。
中小企業診断士試験では、1次試験と2次試験の関連度が高い科目は優先順位を上げて勉強すると効率的に進めることができます。
そして、財務・会計はすべての科目の中でも難易度が高いです。そのため、優先的に着手して勉強時間を多めに確保することが合格への近道になります。
勉強時間は1次試験全体は800時間必要な中の180時間、2次試験では全体で200時間の内半分に当たる100時間が目安になります。
いずれも科目別では最も時間を使って取り組むべき科目ですので、重要度は高いと言えるでしょう。
【あわせて読みたい】中小企業診断士の勉強時間は1,000時間!1次・2次・科目別の時間は?
1次試験・2次試験に共通する財務・会計の基本戦略は、試験でよく出題される計算問題を確実に解くことです。
なぜなら、受験生の中には計算問題を苦手とする人が少なくないからです。不合格の要因になることも多いです。
特に2次試験の「事例Ⅳ(財務・会計)」では、計算問題を攻略できているかどうかがポイントになってきます。
2次試験では事例Ⅰ〜Ⅳの4科目が出題され、事例Ⅰ〜Ⅲは文章を作成して答え、多くの問題では部分点を積み重ねていくことになります。
そのため、他の人よりもかなり高い得点を取ることは難しいです。
これに対して、事例Ⅳだけは計算問題が多く出題されます。正確に計算できれば着実に点を取れるというタイプの問題です。
ここでしっかり得点できれば、計算を苦手とする他の人に差をつけることができます。そのため、事例Ⅳの出来が2次試験の合格を左右することが多いのです。
このように、財務・会計は計算問題の攻略が焦点です。
特に、経営分析、損益分岐点分析、キャッシュフロー計算書、投資評価などのテーマは1次試験・2次試験の両方でよく出題されています。
こういったテーマの計算問題は繰り返し練習し、確実に計算できるようにしましょう。
財務・会計の計算問題は、得意な人と苦手な人にはっきり分かれやすいと言えます。
「スタディング 中小企業診断士講座」を開発した綾部貴淑講師は、実は受験生時代に計算問題が大嫌いで、苦手意識が強かったそうです。
しかし計算問題を攻略できないと試験に合格できないと考えて「計算問題が得意になる方法」を考案し、合格をつかみ取りました。
ここからは綾部講師の計算問題の勉強法を解説します。
まず、なぜ計算問題を間違うのかを考えてみましょう。大きく分けると以下の2つのケースが多いと考えられます。
(1)解き方がわからない・間違えている(手続きが間違っている)
(2)計算ミス(手続きは合っているが、途中で計算を間違っている)
(1)は、そもそも解き方が分からない、もしくは、解き方を間違ったため解けないというものです。たとえば「解くための計算式が間違っていた」というケースです。
(2)は、解き方は正しかったものの、途中で計算ミスをしてしまったというものです。たとえば「計算式は合っていたものの、計算の過程のどこかで間違えてしまった」というケースです。
計算問題練習では、上記の2点のポイントに注意して練習すると効果的です。
計算を間違える理由(1)を克服するには、どのような解き方・計算をすればいいかを問題を見てすぐに判別できることを心がけて練習しましょう。
経営分析であれば、経営指標の計算式がすぐに思い浮かぶように、キャッシュフロー計算書であれば、キャッシュフロー計算書の作成の流れがすぐに思い浮かぶように練習します。
問題を読んだ後に式を書いてから解くのが効果的です。
計算を間違える理由(2)を克服するには、丁寧に計算するようにしましょう。
「スタディング 中小企業診断士講座」を開発した綾部講師は、受験生時代に計算ミスが多かったそうで、その原因は「丁寧に計算していない」という非常にシンプルなものでした。
計算の途中過程を書いていない、字が汚い、急ぎ過ぎ、見直しをしなかった、という小さなことが積み重なり、計算ミスを招いていたのです。
そこで、きれいな字で丁寧に計算を行うようにしたところ、ミスが減って計算問題で得点できるようになったそうです。
計算ミスが多い人は、特に最初は丁寧に計算することを心がけましょう。
計算問題の勉強法は、上記2つに加えて繰り返し練習することも重要です。
計算問題の練習はスポーツの練習と似ていて、正しいフォームを頭で理解するだけでなく、いつでも実演できるようになることが必要です。
そのためには繰り返し練習するしかないのですが、計算問題が苦手な人は繰り返しが足りていない事が多いのです。
本物の力を身につけるために、ぜひ繰り返しを重視して練習してみてください。
ここからは財務・会計の科目の内容を会計(アカウンティング)と財務(ファイナンス)に分けて勉強法を解説します。
まず会計は、基礎となる財務諸表と簿記を最初に学習し、それから各論を勉強していきましょう。
財務諸表では、特に貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を理解しておく必要があります。
財務諸表の役割・構造と主要な勘定科目を押さえておきましょう。
簿記では、まず簿記一巡の手続き(1つの会計期間に行われる一連の手続き)などの基礎を学習します。
1次試験では、毎年、仕訳に関する問題が出題されることが多いですが、仕訳を細かく学習しようとするとかなりの時間がかかります。
よく出題されている内容を先に学習し、その後に過去問などを解きながら実力をアップしていったほうがいいでしょう。
棚卸資産の計算や、経過勘定等のテーマは比較的よく出題されているため計算できるようにしておきましょう。
財務・会計で必要な簿記の知識は簿記2級のレベルになります。
中小企業診断士の仕事内容には、中小企業の経営者の相談に乗ることや、コンサルティング業務があります。
その場合、企業の経営状況を理解できたり、さまざまな分析ができるレベルが中小企業診断士に求められることがわかります。
簿記2級では、財務諸表から経営内容を理解できたり、適切な分析ができるレベルが求められます。
そのため、簿記2級を保有している人は財務・会計科目の内容の理解がしやすくなると言えるでしょう。
スタディング中小企業診断士講座(スタンダード、コンプリート、パーフェクト)の中には、「簿記入門講座」があり、「簿記の基礎知識」「仕訳」「決算手続き」などを学べます。
そのため、これまで簿記をまったく勉強したことがなくても無理なく知識をつけていくことができます。
中小企業診断士の勉強を始める前に、一度簿記の基礎を学んでおくことで、効率よく勉強が進められるでしょう。
基礎となる財務諸表と簿記を学んだら、各論の学習に進みます。アカウンティングの各論には下記のテーマがあります。
1つずつ見ていきましょう。
税務・結合会計は、アカウンティングの中では比較的優先度が低いテーマと言えますが、基本的な問題は計算できるようにしておきましょう。
キャッシュフロー計算書は1次試験と2次試験の両方でよく出題されます。
苦手意識を持つ人も多いですが、計算に慣れれば得点源にすることができるテーマです。
B/S、P/Sから、キャッシュフロー計算書(C/S)を作成できるように練習を繰り返しましょう。
また、キャッシュフローの概念は、投資評価などでも使いますので、ぜひ得意分野にしておきましょう。
原価計算も専門性が高い分野ですが、手続きに慣れれば正解することができます。
特に総合原価計算は良く出題されているため、しっかりマスターしてください。
経営分析(損益分岐点分析を含む)は、2次試験で必ずと言っていいほど出題される重要テーマです。1次試験対策としては、基本的な経営指標をしっかり計算できるように練習しておくことが重要です。
2次試験対策では、これに加えて、事例企業の問題点の診断ができるようにしておく必要があります。
つまり、経営指標が何を表しているのかを理解し、数字の良し悪しを判断できるようにすることがポイントです。
財務・会計の「財務(ファイナンス)理論では、資金調達と投資が主なテーマになります。
普段の仕事であまり使わないという人も多いですが、一度理解してしまえばアカウンティングよりも覚える内容が少ないため得意分野にしやすいでしょう。
ファイナンスの各論には下記のテーマがあります。
1つずつ見ていきましょう。
投資評価は、1次試験だけでなく、2次試験でも出題されやすい内容です。条件が与えられた時に、投資するかどうかの判断ができる必要があります。
また、その判断をするための各種の投資評価方法をマスターしておきましょう。
特に、正味現在価値法が重要ですので、計算問題で繰り返し練習してください。
資本市場と資金調達では、資本コストを理解することが重要です。資本コストの概念の理解と、計算ができるようにしておきましょう。
現代のファイナンスでは、企業価値、株価指標、デリバティブについて、基本的な問題が出題された際には計算できるようにしておきましょう。
ただし、デリバティブについては、多様な手法がありますので、為替予約やオプション取引など、基本的な分野にしぼって学習したほうが良いでしょう。
中小企業診断士試験科目の一つである「財務・会計」の勉強法についておさらいしていきます。
財務・会計は苦手な人が多い科目なので、難しく感じても心配しすぎなくて大丈夫です。
ただし重要な科目であることは間違いないので、計算問題を練習して着実に攻略できるようにしていきましょう。