IT開発者・技術者ではなく、一般企業で活躍するためにIT系の資格取得を目指す人にとって、経済産業省が認定する国家試験であるIPAの情報処理技術者試験のうち、情報システムの利活用者側に位置するITパスポート試験(IP)と情報セキュリティマネジメント試験は取得資格の候補に挙がってくるでしょう。
同じ利用者側でもスキルレベル(CCSFレベル)が異なるITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験(SG)。ここでは両試験の想定する受験者像や、難易度、合格率をもとに、どちらの試験を受験するべきか、そして基本情報技術者試験(FE)との違いについても解説します。
ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験、難易度の違いは?
ITパスポート試験と情報処理セキュリティマネジメント試験は、それぞれでスキルレベル(CCSFレベル)が異なります。
ITパスポート試験がスキルレベル1、情報セキュリティマネジメント試験がスキルレベル2に該当します。
しかし、スキルレベルの違いだけで資格の難易度がどのくらい違うのか把握するのは早計です。
資格の難易度の違いを正しく把握するには、受験者の対象者像から試験内容を想定したり、合格率を比較したりすることが大切になります。
ここでははじめに、ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験の対象者像の違いを解説します。
それぞれの試験はどんな受験者に向けたものなのか把握し、自分が受験する資格を選択する際の参考にしてみてください。
スキルレベル的には上位資格だが、対象者像も若干異なる情報セキュリティマネジメント試験
情報処理技術者試験の実施団体である情報処理推進機構(IPA)が定義する「共通キャリア・スキルフレームワーク(CCSF)」では、ITを利活用する全ての社会人向けにITパスポート試験、ITの安全な利活用を推進する方向けに情報セキュリティマネジメント試験があるとされています。
ITパスポート試験はもっとも挑戦しやすいスキルレベル1に、情報セキュリティマネジメント試験や基本情報技術者試験といった試験はスキルレベル2に相当しています。
単純にスキルレベルだけでみれば、情報セキュリティマネジメントはITパスポートの上位資格に位置しますが、ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験では出題範囲、対象者像が異なります。
一概にすべてが共通しているわけではありません。
それぞれの資格の対象者像については、後述します。
ITパスポート試験の対象者像は「ITに関する共通的な基礎知識を習得した者」
情報処理推進機構(IPA)が定める、ITパスポート試験の対象者像は以下のとおりです。
職業人およびこれから職業人となる者が備えておくべき、ITに関する共通的な基礎知識をもち、ITに携わる業務に就くか、担当業務に対してITを活用していこうとする者
ITパスポート試験は、安全に情報の収集や活用をおこなったり、利用する情報機器およびシステムを把握したうえで活用したりするために必要な知識を学ぶ資格です。
そのため、試験ではITに関する全般的な基礎知識が問われ、特定の分野に焦点をあてた資格ではないといえます。
このほか、上位者の指導のもと業務の分析やシステム化の支援をしたり担当業務を理解して問題の把握および解決を図ったりするのもITパスポート保持者の役割です。
ITに関する基礎知識を身につけたことを証明する試験なので、合格することで、さまざまな職種・業種への就職や転職に向けて付加価値を高めることができるでしょう。
情報セキュリティマネジメント試験の対象者像は「情報システム利用部門における情報セキュリティリーダー」
一方で、情報処理推進機構(IPA)が定める情報セキュリティマネジメント試験の対象者像は、以下のとおりです。
情報システムの利用部門にあって、情報セキュリティのリーダーとして、部門の業務遂行に必要な情報セキュリティ対策や組織が定めた情報セキュリティ諸規程(情報セキュリティポリシーを含む組織内諸規程)の目的・内容を適切に理解し、情報および情報システムを安全に活用するために、情報セキュリティが確保された状況を実現し、維持・改善する者
情報セキュリティマネジメント試験は、ITパスポート試験と同じ情報システム利活用者側にあり、なおかつ情報セキュリティに焦点をあてた試験であることがわかります。
そのため、ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験の2つの試験がスキルレベルだけでなく、分野としても明確に区別されているといえます。
どちらの試験を受験するかお悩みの方は、より自分の分野に共通する資格を選びましょう。
また両方を取得するのも1つの方法なので、自分に適した試験の合格を目指し、得た知識を将来に役立ててください。
(参考)基本情報技術者試験との対象者像の違い
情報セキュリティマネジメント試験やITパスポート試験と並び広く認知されているIT系の国家試験として、基本情報技術者があります。
基本情報技術者試験の対象者像は、以下のとおりです。
ITを活用したサービス、製品、システムおよびソフトウェアを作る人材に必要な基本的知識・技能をもち、実践的な活用能力を身に付けた者
基本情報技術者試験は、情報システムの利活用者ではなく、技術者や開発者側を対象としている試験です。
そのため、情報システムの利活用者を対象としているITパスポートや情報セキュリティマネジメントと比較して受験者の層が異なります。
また基本情報技術者試験は、プログラミングに関連したアルゴリズムや擬似言語に関する出題があるため、出題範囲や出題傾向がより専門的な試験です。
情報セキュリティマネジメント試験と比較しても難易度が高いとされており、合格には計画的な対策とモチベーションの維持が求められます。
合格率から見る、情報セキュリティマネジメントとITパスポート試験の難易度比較
主にITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験の違いについて解説しましたが、難易度がどのくらい違うのか気になる方もいるのではないでしょうか。
近年のITパスポート試験の合格率は約51~59%、情報セキュリティマネジメント試験の合格率は約49~67%程度に分布しています。
ここでは、ITパスポートと情報セキュリティマネジメントの合格率から難易度の違いを詳しく解説します。
情報セキュリティマネジメントとITパスポート試験の合格率はほぼ同程度
情報セキュリティマネジメント試験とITパスポート試験の過去5年間の合格率は、以下の表のとおりです。
実施年度 |
ITパスポート |
情報セキュリティマネジメント |
令和4年(2022年) | 51.6% | 56.2% |
令和3年(2021年) | 52.7% | 53.2% |
令和2年(2020年) | 58.8% | 66.6% |
令和元年(2019年) | 54.3% | 49.4% |
平成30年(2018年) | 51.7% | 49.9% |
出典:独立行政法人 情報処理推進機構|情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 推移表
表をみると、平成30年度以降のITパスポート試験の合格率が約51~59%、情報セキュリティマネジメント試験の合格率が約49~67%で推移していることがわかります。
情報セキュリティマネジメント試験とITパスポート試験で求められるスキルレベルは異なるものの、合格率ベースでみた場合には近い傾向にあるのが特徴です。
そのため、どちらの資格を受験しようか悩んでいる場合でも、多少ITの知識に自信があるのであれば、思い切って情報セキュリティマネジメントから挑戦するのも1つの方法です。もちろん、両方の資格を取得しても問題ないため、自分に適した方法で資格取得を目指しましょう。
情報セキュリティマネジメント試験は、2023年4月から試験制度げ変更となりました。
新試験制度の導入初年度ということもあり、70%台と合格率の上昇がうかがえます。しかし、例年高い合格率を記録した翌年は、難易度の調整が入ることもあるため、一概に「難易度の低い試験」であるとの認識は危険であると言えます。
試験対策をしっかりと行い、油断せず試験に臨むようにしましょう。
じっくり学びたいならITパスポート試験→情報セキュリティマネジメント試験
時間をかけて確固としたIT知識を身につけたい初学者であれば、まずはITパスポート試験から挑戦しましょう。
ITパスポート試験で基礎を十分に身につけ、その後で情報セキュリティマネジメント試験にステップアップするのがおすすめです。
ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験で出題される基礎的な知識は、共通しているものが多くあります。
そのため、順番にステップアップすることで無理なくスキルを身につけられるでしょう。
また、既にある程度のIT知識を身につけている方であれば、情報セキュリティマネジメント試験から挑戦するのも1つの方法です。
情報セキュリティマネジメント試験に合格することで、現在よりも仕事の幅を広げたりキャリアアップにつながったりします。
ITパスポート試験も基礎的なIT知識を身につけられる点では共通していますが、情報セキュリティ分野を中心により専門的な知識が問われるのが情報セキュリティマネジメント試験なので、既に専門分野に携わっている方におすすめできるというわけです。
もちろん、ITパスポート試験で基礎を十分に固めてから情報セキュリティマネジメント試験にステップアップする方法でも問題ないため、自分の状況に適した方法で試験合格を目指してください。
合格までに必要な勉強時間は?
ITパスポート試験に合格するまでに必要な勉強時間はどのくらいなのでしょうか?
結論からお話しすると、合格までの勉強時間は受験者のレベルによって異なります。
まず、情報処理の知識がほとんどない初心者の場合、ITパスポート試験の合格まで約180時間程度、情報セキュリティマネジメント試験や基本情報技術者試験で約200時間の勉強時間を要します。
初心者の場合、最初はテキストや参考書を読んでも理解が進みにくいため、用語の意味を調べながら少しずつ知識を付けましょう。
焦らずに用語の意味やわからない内容の理解に努め、少しずつ過去問などで解ける問題を増やすことが大切です。
一方で、ベースとなる知識を有している場合、ITパスポート試験で約100〜150時間、情報セキュリティマネジメント試験でさらに約50〜100時間の勉強時間が目安となるようです。
もし、ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメント試験の両方の合格を考えているのであれば、前述したとおり、まずはITパスポート試験の合格から目指しましょう。
初心者からのスタートでも、ITパスポート試験の合格後から情報セキュリティマネジメント試験に必要な差分の勉強をスタートすることで、勉強時間の短縮につながります。
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情報セキュリティマネジメント試験やITパスポート試験の効果的な勉強法は?
情報セキュリティマネジメント試験、ITパスポート試験を勉強する際、両方に共通して効果的な勉強のポイントは以下のとおりです。
- スキマ時間を活用して勉強する
- 過去問題を繰り返し解く
- インプットとアウトプットを繰り返して知識を定着させる
基本的にはどちらの試験も参考書などの教材を読み込んで専門用語を覚え、その知識をもとに過去問題などを使った問題練習をするのが一般的な勉強方法です。
なるべくたくさんの用語をおぼえ、入手できる問題は過去問題、サンプル問題などすべて受験前に解いておくくらいの気持ちで問題練習を反復しましょう。
勉強を行う際、就寝前や起床後、日中の移動時間や休憩時間といったスキマ時間を有効に活用することが大切です。
また、試験日までに過去問題は繰り返し解いておきましょう。
本番の試験で過去問と全く同じ問題が出題されるわけではありませんが、過去問を通して苦手分野を把握したり出題傾向を把握できたりします。
参考書と併用しながら問題の対応力を上げたり苦手分野を克服したりすることで、試験に合格する力を効率的に身につけることが可能です。
参考書や過去問の解説部分でのインプット、過去問題や問題演習などでのアウトプットを繰り返して知識を定着させていきましょう。
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合格後に生かせる仕事、キャリアプランは?
ITパスポート試験で身に着けるIT全般の基礎知識、そして情報セキュリティマネジメント試験で習得する情報セキュリティの知識は、以下のような仕事で生かせるとされています。
- ITパスポート:システムエンジニア、ゲームプログラマー、ゲームプランナー、国家公務員、事務仕事など
- 情報セキュリティマネジメント:企業の情報管理・セキュリティ部門、システムエンジニア、プログラマー、ITコンサルタント
どちらの資格も共通してIT関連の業界で役立ちますが、情報セキュリティマネジメントの方がより専門的に役立つのが特徴です。
ただし、ITパスポートの資格が役立たないわけではありません。
それぞれの資格で生かせる仕事や取得の難易度が異なるため、自分の仕事状況などを踏まえて適した資格の取得を目指すのがよいでしょう。
ここでは、それぞれの資格を生かせる仕事について詳しく解説します。
ITパスポート試験が生かせる仕事
ITパスポート試験は、社会人・これから社会人として働く方が備えておくべきITに関する共通的な基礎知識が問われる資格です。
ITに携わる業務に就いたり、担当業務に対してITを活用したりする方に適しています。
ITパスポート試験に合格したことを生かせる仕事については、以下の表をご覧ください。
生かせる仕事 |
仕事の概要 |
システムエンジニア | 顧客の要求を技術的に実現するためのシステムを設計し、プログラムの仕様書を作成する仕事。ITの普及に伴って需給が高い傾向にあるため、ITパスポートの資格とも相性がよい |
ゲームプログラマー | プログラミングの技術を用いて、ゲーム開発を行う仕事。ゲームプログラミングでは、ゲームハードの限界を引き出すプログラムが要求される可能性もあるため、コンピューターのハードウェアに関する知識があるとさらに役立つ |
ゲームプランナー | ゲームの企画やシナリオの作成、仕様書の作成やマーケティングなどを行ってゲームを生み出す仕事。ITの基礎知識があることで、無理のない企画の作成や開発チームに配慮したマネジメントの実現などに役立つ |
国家公務員 | ITパスポートは情報セキュリティに関する知識が身につけられるため、国家公務員をはじめ取得を推奨している企業が増えている。取得していることで採用の際に役立つ可能性がある |
事務仕事 | パソコンを利用して行う事務の仕事。情報セキュリティに関する知識があることで情報漏えいやウイルス侵入の防止につながる |
大学入試 | ITパスポートの資格が大学入試時に優遇される可能性あり。単位認定にITパスポートの資格が含まれていることもあるため、経済関連の大学を目指している方は取得がおすすめ |
ITに関する基礎知識を身につけられるITパスポート試験は、IT関連の仕事をはじめ、広くさまざまな職種・業種で資格を役立たせることが可能です。
試験に合格することで自分自身の付加価値が高められるため、「なにか履歴書に書ける資格や試験に挑戦したい」といった際におすすめできる資格といえます。
情報セキュリティマネジメント試験が生かせる仕事
情報セキュリティマネジメント試験が生かせるのは、組織の情報セキュリティリーダーとして、業務の遂行に必要なセキュリティ対策や組織のセキュリティ規程を踏まえ、情報セキュリティ環境を整えたり改善したりする仕事です。
情報セキュリティマネジメントを取得することで生かせる仕事は、以下の表をご覧ください。
生かせる仕事 |
仕事の概要 |
企業の情報管理・セキュリティ部門 | 情報管理の担当者として、組織のセキュリティ規制や業務遂行に必要なセキュリティ対策などの管理・運用の監督などを行う仕事。企業の情報資産を脅かすウイルス・バグなどに対応することを目的に社員の教育なども行う。資格を取得することで付加価値がさらに高まり年収アップなどを狙える |
システムエンジニア | 顧客の要求を技術的に実現するためのシステムを設計し、プログラムの仕様書を作成する仕事。資格を取得することで情報セキュリティの知識を深められ、技術者としての付加価値をあげたりITコンサルタントへの転職など選択肢が増える |
プログラマー | システムエンジニアが設計したプログラム仕様書に基づいてシステムが問題なく動作するようプログラムする仕事。情報セキュリティの知識をつけ、システムエンジニアなどへのキャリアアップが狙える |
ITコンサルタント | クライアントの経営戦略に基づいてIT戦略を考え、有効なシステム開発の提案や最適化によって企業経営に貢献する仕事。情報セキュリティの知識はサイバー攻撃からの観点で必要不可欠な知識となるため、資格取得が求められる。資格を取得することでクライアントからの信頼を得られやすい |
情報セキュリティマネジメント試験に合格することで生かせる仕事は、複数の種類があります。
キャリアアップを狙えるため、付加価値を高めて年収アップを狙いたいといった場合にも、情報セキュリティマネジメント試験はおすすめといえるでしょう。
どちらを受験する人も、効率よく勉強するなら通信講座がオススメ
情報セキュリティマネジメント試験とITパスポート試験、最初から情報セキュリティマネジメント試験の合格を目指す人、あるいはITパスポート試験からのステップアップを目指す人も、より効率よく学習するなら通信講座を検討するのがおすすめです。
通信講座の受講には、以下のようなメリットがあります。
- 専門講師の動画講義で効率よく勉強できる
- わからない問題や苦手分野を克服しやすい
- 参考書や過去問題などを選ぶ際に迷わなくて済む
- 勉強のモチベーションが維持しやすい
通信講座であれば、充実した教材とサポートによって、勉強の効率がアップしたりモチベーションを維持しやすくなったりします。
そのため、初心者が資格取得を狙う場合でもスムーズに学習を進めやすいのがメリットです。
また、専門の動画講義や教材が用意されていることで、テキスト選びに悩まなくて済むのも通信講座を受講するメリットです。最新のトピックスにもしっかり対応できます。
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