【2024年度最新版】処遇改善手当で保育士の給料はいくら上がる?

保育士の待遇改善は、子育て支援の充実と保育の質の向上に欠かせない課題です。

そこで導入されたのが処遇改善手当制度です。

この制度は保育士の給与を上げ、人材確保と離職防止を目的としています。

本記事では、処遇改善手当の3種類の加算について詳しく解説します。

加算の種類や条件、金額など、保育士の皆さんに知っておいていただきたい情報をわかりやすくまとめました。

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保育士の処遇改善手当とは?

保育士の処遇改善手当とは、内閣府が「処遇改善加算」の制度をもとに実施している保育士の給与を上げるために支給される補助金です。

具体的には、以下の3種類があります。

  • 2015年度からの処遇改善等加算Ⅰ
  • 2017年度からの処遇改善等加算Ⅱ
  • 2022年度からの処遇改善等加算Ⅲ

3つの加算はそれぞれ対象者や目的、加算額の算定方法などが異なりますが、詳細についてはのちほど解説します。

また自治体によっては独自の処遇改善制度を実施しているため、手当をさらに上乗せで受け取ることも可能です。

保育士の処遇改善手当は、保育士の給与を改善して保育士の数を増やしたり離職を防止したりすることを目的に導入されました。

これまで保育士の収入はほかの業種や職種と比べても低い傾向にあり、保育士になっても早い段階で離職してしまう人があとを絶ちませんでした。

処遇改善手当によって保育士の離職を防止し成り手も増加すれば、保育園を増設したり、待機児童問題を解決したりできる可能性があります。

保育士が処遇改善手当でもらえる金額はいくら?

保育士の処遇改善手当にはⅠ・Ⅱ・Ⅲの3種類があります。適用される条件や加算される金額は、それぞれの手当の種類によって異なります。

処遇改善等加算Ⅰ

処遇改善等加算Ⅰはすべての職員を対象に、平均経験年数やキャリアパスの構築等に応じて加算率が設定される手当です。最大で、月額給与の19%が加算されます。

処遇改善等加算Ⅱ

処遇改善等加算Ⅱは、中堅職員や専門リーダーにあたる職員を対象とした手当です。技能・経験に応じて、副主任保育士・専門リーダーには月額4万円、職務分野別リーダーには月額5,000円が加算されます。

処遇改善等加算Ⅲ

処遇改善等加算Ⅲは、すべての職員を対象とした手当で、月額9,000円が加算されます。

それぞれの処遇改善手当の支給対象となっている保育士は、申請をすると上記の金額が加算されます。

なおこども家庭庁が2024年に公開した「保育士等の処遇改善の推移」によると、令和4年度における保育士等の処遇改善率は「+約18%+最大4万円(月額約5.7万円+最大4万円)」です。

保育士の処遇改善手当の支給日と支給方法

保育士の処遇改善手当は、国から直接保育士個人に支払われるものではありません。

まず国へ申請を出した保育施設に対し、所属している職員全員分がまとめて振り込まれます。

そこから、保育園が各職員へ振り分けて支給がされる仕組みです。

なお支給日は、多くの保育園が給料日に基本給や残業代、交通費などの諸手当などと一緒に振り込みをしています。

ただし保育園によってはボーナスと一緒に支給される場合や、あくまで一時金として毎月の給料とは分けて支給されることもあります。

給料明細には、基本給とは別で「処遇改善手当」として記載されていることが多いでしょう。

保育士の処遇改善手当の支給期間はいつからいつまで?

保育士の処遇改善手当の支給期間は、いつからいつまでと明確に定められてはいません。

2015年度から始まった処遇改善等加算Ⅰ、2017年度から始まった処遇改善等加算Ⅱは継続的な制度とされており、今後も受け取り続けることができます。

処遇改善加算Ⅲについては、現状実施期間が2022年2月から9月までとされています。

ただし内閣府が公開したリーフレットには、「令和4年(2022年)10月以降も、公定価格の見直しにより、収入を3%程度(月額9,000円)引き上げる措置を継続します」と記載されています。

そのため、手当自体の支給が終わった際も、同額程度の継続的な引き上げ措置があり、受け取れる金額に大きな差はないと考えてよいでしょう。

保育士の処遇改善手当の対象者ともらえる条件

保育士の処遇改善手当Ⅰ〜Ⅲの支給対象者と支給条件は、下記の通りです。

手当の種類処遇改善加算Ⅰ処遇改善加算Ⅱ処遇改善加算Ⅲ
対象となる保育士非常勤を含む全職員が対象となる。なお、パートや派遣保育士などの非正規職員、保育士以外の事務員、給食調理員などの職員も含まれる。約3年以上の保育士経験がある職員が対象となる。非常勤を含む全職員が対象となる。なおパートや派遣保育士などの非正規職員、保育士以外の事務員、給食調理員などの職員も含まれる。
支給条件非正規職員の場合、1日6時間以上かつ月20日以上勤務していること。所定のキャリアアップ研修を修了し、副主任・専門リーダー・職務分野別リーダーといった役職に任命されていること。特に制限なく、どのような職員も支給対象となる。
対象となる保育施設認可保育園(公立保育園、私立保育園、小規模保育事業、企業主導型保育園など)が対象となる。認可保育園(公立保育園、私立保育園、小規模保育事業、企業主導型保育園など)が対象となる。認可保育園(公立保育園、私立保育園、小規模保育事業、企業主導型保育園など)が対象となる。

パートや契約社員は処遇改善手当の対象?

認可保育園であれば、パートや契約社員として働く保育士も処遇改善加算ⅠとⅢの支給対象となっています。

支給方法も正規職員と同様で、毎月の給与に加えて支給されるケースが一般的です。

ただし実際にいくらもらえるかは、保育園の配分によって異なります。

産休・育休中は処遇改善手当をもらえる?

産休中および育休中の保育士には、産休手当、育休手当が支払われます。

産休手当と育休手当は、それぞれ取得以前の給料をもとにして国が支払うもので、毎月の勤務に対して保育園が支払う給料とは異なります。

そのため産休中および育休中の保育士は、処遇改善手当は支給対象外となります。

認可外保育園は処遇改善手当の対象外

処遇改善手当は、認可保育園を対象とした制度です。

そのため認可外保育園で働く保育士は支給対象外となり、処遇改善手当を受け取ることはできません。

保育士の処遇改善手当がもらえないときの相談窓口は?

前述の通り、処遇改善手当は国から保育士に直接支払われるものではありません。

まずは、保育園に所属している全職員分の手当がまとめて振り込まれます。そこから園の判断で職員に分配されて、初めて個人で受け取ることができます。

保育園によっては、正しく分配や支給がされていなかったり、未払いとなってしまうようなケースもないとは言い切れません。

現状、保育士の処遇改善手当に関する相談窓口は特に開設されていません。対策としてはそれぞれで勤務先に相談するしかないでしょう。

保育士の処遇改善手当は3種類!その詳細は?

前述の通り処遇改善手当にはⅠ〜Ⅲの3種類があり、それぞれ支給対象となる条件や受け取る金額が異なります。

ここからは、処遇改善等加算Ⅰ〜Ⅲの支給条件や算定方法などの詳細について解説します。

保育士を目指している方は、ぜひ参考にしてください。

処遇改善等加算Ⅰ

処遇改善等加算Ⅰは、職員の平均勤続年数に応じて園に補助金が入る仕組みの手当です。

毎月の給与に、1万2,000円~最大3万8,000円(2~12%)が加算されます。

この加算額の算定に用いる加算率は、職員1人当たりの平均経験年数の区分に応じて、基礎分の割合に賃金改善要件分の割合を加えて、得た割合と定められています。

なお賃金改善要件分の割合については、キャリアパス要件に適合しない場合は、当該割合からキャリアパス要件分の割合を減じた割合となります。

加算率については、以下の加算率区分表を参照してください。

職員一人当たりの平均経験年数加算率
基礎分賃金改善要件分賃金改善要件分のうちキャリアパス要件分
11年以上 12%7%2%
10年以上11年未満12%6%
9年以上10年未満11%
8年以上9年未満10%
7年以上8年未満9%
6年以上7年未満8%
5年以上6年未満7%
4年以上5年未満6%
3年以上4年未満5%
2年以上3年未満4%
1年以上2年未満3%
1年未満2%

処遇改善等加算Ⅱ

処遇改善等加算Ⅱは所定のキャリアアップ研修を修了し、副主任保育士や専門リーダー、職務分野別リーダーといった役職につくことを条件に支給されます。

毎月の給与に、5,000円~4万円が加算されます。

なおキャリアアップ研修は、①乳児保育、②幼児教育、③障害児保育、④食育・アレルギー、⑤保健衛生・安全対策、⑥保護者支援・子育て支援、⑦保育実践、⑧マネジメントの分野にわかれています。

各役職の要件は、以下の通りです。

職務分野別リーダー

  • 経験年数がおおむね3年以上
  • 担当する職務分野(上記①~⑥)の研修を修了している
  • 修了した研修分野にかかわる職務分野別リーダーとしての発令

上記の要件を満たすと、月額5,000円が加算されます。

副主任保育士

  • 経験年数がおおむね7年以上
  • 職務分野別リーダーを経験している
  • マネジメントに加えて、3つ以上の分野の研修を修了している
  • 副主任保育士としての発令

上記の要件を満たすと、月額4万円が加算されます。

専門リーダー

  • 経験年数がおおむね7年以上
  • 職務分野別リーダーを経験している
  • 4つ以上の分野の研修を修了している
  • 専門リーダーとしての発令

上記の要件を満たすと、月額4万円が加算されます。

処遇改善等加算Ⅲ

処遇改善等加算Ⅲは、すべての職員を対象にした賃上げを目的として導入されました。

毎月の給与に9,000円が加算されます。

認可保育園に勤務しているすべての職員が支給対象となっているため、ほかの処遇改善加算のように経験年数や雇用形態などといった支給条件は特にありません。

各自治体が行う保育士の処遇改善について

国が実施している保育士の処遇改善手当については、前述の通りです。

ここからは、各自治体が独自に行っているさまざまな処遇改善をご紹介します。

自治体によっては、国からの処遇改善手当に加えて追加で手当を受け取れる場合があります。

保育士の資格を目指している方、保育士として働く勤務地を検討している方はぜひ参考にしてください。

東京都大田区

東京都大田区では、「大田区保育士応援手当及び一時金」を支給しています。

応援手当とは、保育士等としての経験年数が交付対象期間(前期:4月~9月、後期:10月~翌3月)の初日時点で満5年未満の常勤保育士に対し、6万円/回(1万円/月)が支給される制度です。

また、経験年数(区内保育施設に限る)が交付申請年度の前年度中に満10、15、20、25、30、35又は40年のいずれかに達した常勤保育士に対しては、10万円/回の一時金が支給されます。

東京都江戸川区

東京都江戸川区では、保育士に対して独自の補助手当(1万円相当)と、東京都キャリアアップ補助(4万円相当)をあわせて、月額最大5万円相当を給与に加算しています。

また5年ごとの節目に10万円の報奨金や、月額上限8万2,000円の家賃補助も受け取ることが可能です。

江戸川区ではそれ以外にも、キャリアアップのための研修や巡回、子供の保育園入園への配慮などといったサポートを実施しています。

千葉県船橋市

千葉県船橋市内の私立保育園で働く場合、園から支給される給料に追加して、月額4万3,220円の手当が支給されます。

また毎月の給料だけでなく、ボーナスにも年間8万3,700円の上乗せや月額最大6万9,000円の家賃補助も受け取ることが可能です。

なお船橋市では現役の保育士だけでなく、保育士の資格取得を目指す人に対する修学資金の貸付けも実施しています。

埼玉県さいたま市

埼玉県さいたま市では、保育士が年額19万3,500円の給与上乗せ補助や、月額上限7万2,000円の家賃補助を受けることができます。

また学生や保育士資格取得者を対象に、市内の認可保育所を巡って見学ができるツアーも実施されています。

大阪府大阪市

大阪府大阪市では、市内の民間保育施設で勤務する保育士に対し、節目となる年次(5~7年目、10年目、15年目、20年目、25年目以上)に一時金を交付しています。

なお交付額は、常勤保育士が20万円、短時間勤務保育士が10万円となります。

大阪市ではほかにも、保育士・保育所等支援センターからの就職支援や、就職準備金の貸し付けといったサポートを受けることが可能です。

兵庫県明石市

兵庫県明石市では、市内の私立認可保育施設に採用された場合、3カ月経過で10万円、その後は1年経過ごとに6年経過まで毎年20万円、7年経過すると30万円の支援金を受け取ることが可能です。

また保育施設が借り上げたマンション等に入居した場合、月額最大5万7,000円の家賃補助が受けられます。

明石市ではほかにも、子供が優先的に保育所へ入所できるといったサポートが実施されています。

保育士の処遇改善は今後どうなる?

こども家庭庁は、2025年から保育事業所に対して職員の給与実態の報告を義務づけました。

これは各事業所の経営を見える化して検証することで、さらなる保育士の処遇改善の検討に役立てることを目的としています。

また同庁は、2024年2月に「公定価格の処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの一本化について」を公開しました。

現在Ⅰ~Ⅲにわかれている保育士の処遇改善加算制度は、それぞれ加算額の算定方法が異なり、わかりづらく複雑な制度となっています。

そのため同庁は算定方法や配分ルールなどを整理をした上で、この制度を一本化する方針のようです。

一本化が実現すれば、加算額等が今よりさらにわかりやすくなり、今よりも申請や受け取りがしやすくなるでしょう。

まとめ

本記事では、保育士の処遇改善手当について解説しました。

今回のポイントをおさらいしておきましょう。

  • 保育士の処遇改善手当にはⅠ・Ⅱ・Ⅲの3種類がある
  • 処遇改善等加算Ⅰは平均経験年数・キャリアパスに応じて加算額が変わる
  • 処遇改善等加算Ⅱは役職に応じて加算額が変わる
  • 処遇改善等加算Ⅲはすべての職員に月額9,000円が加算される
  • 処遇改善等加算は認可保育園の職員が対象となる
  • 自治体によっては独自に保育士の処遇改善を実施している場合もある

処遇改善手当などの実施により、保育士の働く環境は少しずつ改善されています。

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