保育士等キャリアアップ研修とは?処遇改善で給料アップが制度化

保育士の処遇改善の取り組みの一つとして導入された保育士等キャリアアップ研修。

保育士等キャリアアップ研修を受講すると保育士としての専門性を高められるだけでなく、通常の給料に加えて手当も得られるのがメリットです。

保育士の処遇改善と専門性の向上のために、今後は研修受講が必須となります。

本記事では、研修の内容や受講のメリット、注意点など、保育士の皆さまに役立つ情報を詳しく解説します。

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保育士等キャリアアップ研修とは?

保育士等キャリアアップ研修は、保育の質の向上と保育士の処遇改善を目的とした制度です。

8つの専門分野から構成され、保育士の経験や役割に応じて必要な研修を受講します。

各分野で15時間以上の受講が必要で、修了すると専門性の高い職務に就くことが可能となります。

研修内容は、乳児保育や幼児教育、障害児保育など、保育現場で求められる専門知識や技術を深めるものです。

保育士の状況によって受講すべき研修が異なり、キャリアパスに応じた学びの機会を提供しています。

この研修を通じて、保育士は自身のスキルアップを図るとともに、処遇改善による給与アップの機会を得ることができるのです。

保育現場のリーダーとしての役割を担うための重要な制度として位置付けられています。

受講内容

保育士等キャリアアップ研修は、eラーニングや対面研修など、さまざまな形式で実施されます。

受講者の都合に合わせて、学べる環境を選択することが可能です。

受講対象者

保育士等キャリアアップ研修の対象者は、保育所等の現場でリーダー的役割を担う者です。

全都道府県で実施され、フルタイム保育士だけでなく、派遣やパートタイムの保育士も受講可能です。

雇用形態は問われず、保育の質向上に意欲的な保育士であれば誰でも参加できます。

この研修は、保育現場全体のスキルアップと、個々の保育士のキャリア形成を支援する重要な機会です。

保育士等キャリアアップ研修に設置された8つの研修分野

保育士等キャリアアップ研修は、保育現場で必要とされる専門性を高めるため、8つの研修分野が設けられています。

  1. 乳児保育
  2. 幼児教育
  3. 障害児保育
  4. 食育・アレルギー対応
  5. 保健衛生・安全対策
  6. 保護者支援・子育て支援
  7. マネジメント
  8. 保育実践

各分野には特定のねらいと内容が設定されており、保育士の総合的なスキルアップを目指す研修です。

各分野を学ぶことで、保育の質の向上と、保育士自身のキャリアアップにつながります。

1.乳児保育

乳児保育分野では、0~2歳児の発達と保育について学びます。

乳児の特性や発達過程、適切な環境設定、個々の発達に応じた保育計画の立案などが主な内容です。

乳児期の重要性を理解し、安全で質の高い保育を提供するための知識と技術を習得します。

2.幼児教育

幼児教育分野では、3歳以上の子どもの教育と発達支援について学びます。

幼児期の特性や学びのプロセス、遊びを通した教育的アプローチ、小学校への円滑な接続などが焦点です。

子どもの主体的な学びを促す、保育実践力を養成するのが目的です。

3.障害児保育

障害児保育分野では、特別な配慮を要する子どもの理解と支援方法を学びます。

障害の特性や個別の支援計画の作成、インクルーシブ保育の実践、関係機関との連携などが主な内容です。

すべての子どもが共に育つ保育環境の構築を目指します。

4.食育・アレルギー対応

食育・アレルギー対応分野で学ぶのは、子どもの健康と食生活の関係、食育の意義と実践方法などです。

また、食物アレルギーの基礎知識や対応策、保護者との連携方法などを習得します。

安全で豊かな食の環境づくりを通じて、子どもの健全な発達を支援するのが目的です。

5.保健衛生・安全対策

保健衛生・安全対策分野では、子どもの健康管理と事故防止について学びます。

感染症対策、救急処置、リスクマネジメント、災害時の対応などが主な内容です。

子どもの命を守り、安全・安心な保育環境を整備するための実践的な知識と技術を習得します。

6.保護者支援・子育て支援

保護者支援・子育て支援分野で学ぶのは、家庭との連携や地域の子育て支援などです。

保護者とのコミュニケーション技術、子育て相談の方法、地域資源の活用などが焦点となります。

保護者や地域と協力して、子どもの健やかな成長を支える力を養成します。

7.マネジメント

マネジメント分野で学ぶのは、保育所の運営や職員の指導に必要な知識と技術などです。

リーダーシップ、組織マネジメント、人材育成、労務管理などが主な内容です。

保育の質の向上と職場環境の改善を目指し、保育現場のリーダーとしての資質を高めます。

8.保育実践

保育実践分野では、保育の計画立案から評価までの一連のプロセスを学びます。

保育課程の編成、指導計画の作成、保育実践の振り返りと改善などが焦点です。

PDCAサイクルに基づいた保育の質向上と、保育士の専門性の向上を目指しています。

保育士等キャリアアップ研修制度

保育士等キャリアアップ研修制度は、保育の質向上と保育士の処遇改善を目的とした国の施策です。

専門性の向上と給与アップを同時に実現する、重要な取り組みです。

受講後に就任できる役職・就任要件

キャリアアップ研修修了後は、経験年数に応じて副主任保育士や専門リーダー、職務分野別リーダーなどの役職に就けます。

ただし各役職には、特定の要件があります。

副主任保育士

副主任保育士は、主任保育士を補佐し、施設全体の保育の質の向上に寄与する役職です。

就任要件は、保育士としての経験年数が7年以上で、マネジメント分野の研修を修了していることです。

さらに、3つ以上の分野の研修を修了していることも求められます。

専門リーダー

専門リーダーは、特定の専門分野において高度な知識と技術を持ち、他の保育士の指導や助言を行う役割です。

就任要件は、保育士としての経験年数が7年以上で、職務分野別リーダーを経験していることです。

加えて、4つ以上の分野の研修修了が必要となります。

職務分野別リーダー

職務分野別リーダーは、特定の職務分野においてリーダーシップを発揮し、保育の質向上を図る役割です。

就任要件は、保育士としての経験年数が3年以上で、担当する職務分野の研修を修了していることです。

他の分野の研修修了は必須ではありません。

処遇改善による手当の金額

保育士等キャリアアップ研修の修了と役職就任に伴う処遇改善手当は、役職によって金額が異なります。

手当は専門リーダーと副主任保育士が月額40,000円、職務分野別リーダーが月額5,000円です。

この処遇改善制度は、保育士のキャリアアップと専門性向上を経済的にも評価するものです。

高度な知識と技術を持つ保育士に対して適切な処遇を行い、保育の質の向上と保育士の職場定着を図ることを目的としています。

手当の支給により、保育士の努力と専門性が正当に評価され、モチベーション向上にもつながることが期待されているのです。

保育士等キャリアアップ研修の適用時期

保育士等キャリアアップ研修の処遇改善等加算Ⅱに係る研修修了要件適用時期は、役職によって異なります。

副主任保育士、中核リーダー及び専門リーダーの研修修了要件の適用時期は、段階的に進められます。

令和5年度から令和8年度までの4年間で、毎年1分野ずつ研修修了要件が追加されていきます。

令和8年度には、完全実施となる予定です。

この段階的な導入により、保育現場や保育士個人の負担を軽減しつつ、着実にキャリアアップを進められます。

各年度の適用要件は以下の通りです。

  • 令和5年度:1分野以上の研修修了
  • 令和6年度:2分野以上の研修修了
  • 令和7年度:3分野以上の研修修了
  • 令和8年度:4分野以上の研修修了

保育士は、この期間内に計画的に研修を受講し、必要な分野の修了を目指すことが求められているのです。

一方で、職務分野別リーダー及び若手リーダーは、令和6年度から1分野の研修修了要件が適用されます

保育士等キャリアアップ研修を受講して処遇改善を受ける手順

保育士等キャリアアップ研修の受講から処遇改善までの流れを以下に説明します。

これらの手順を踏むことで、保育士は専門性を高めつつ、処遇改善を受けることができるのです。

1.研修実施機関に申し込む

キャリアアップ研修の受講を希望する保育士は、各都道府県や指定研修実施機関が提供する研修情報を確認し、希望する分野の研修に申し込みます。

2.保育園側が受講者を決定する

保育園は、園全体の研修計画や個々の保育士のキャリアパスを考慮し、研修受講者を決定します。受講者は園からの推薦を受けて研修に参加します。

3.受講後レポートを提出する

研修受講後、保育士は学んだ内容をまとめたレポートを提出します。

このレポートは、研修内容の理解度を確認するために重要なものです。

4.修了証を受け取る

すべての要件を満たした受講者には修了証が発行されます。

この修了証は、キャリアアップと処遇改善の根拠となる重要な証明書です。

保育士等キャリアアップ研修を受ける4つのメリット

保育士等キャリアアップ研修には、キャリアアップや専門性向上、経済的メリットなど、さまざまな利点があります。

  • 昇進・昇格のチャンスが得られる
  • 保育士として専門知識を身につけられる
  • 受講者の費用負担はない
  • 転職時にも活用できる

1つずつ解説します。

昇進・昇格のチャンスが得られる

保育士等キャリアアップ研修を受講することで、保育現場でのキャリアアップの機会が広がります。

研修修了後は、副主任保育士や専門リーダー、職務分野別リーダーなどの役職に就くチャンスが得られるのが魅力です。

これらの役職に就くことで、保育士としての責任が増すとともに、自身の専門性をより発揮できる場が与えられます。

昇進・昇格は、保育士としての成長を実感できるだけでなく、モチベーション向上にもつながる重要な機会となります。

保育士として専門知識を身につけられる

キャリアアップ研修では、乳児保育や幼児教育、障害児保育など、保育現場で必要とされる専門的な知識や技術を深く学べます。

最新の保育理論や実践方法を学ぶと、日々の保育の質を向上させられます。

また、他の保育士との交流や意見交換を通じて、多様な視点や経験を共有することもできるでしょう。

このような学びは、保育士としての自信につながり、子どもたちにより良い保育を提供する力となります。

受講者の費用負担はない

保育士等キャリアアップ研修の受講費用は、基本的に無料です。

保育士の経済的負担を軽減し、より多くの保育士が研修を受けやすくするために配慮されています。

ただし、テキスト代や教材費などの実費は自己負担となる場合があります。

とはいえ、費用は比較的低額に抑えられているため、大きな経済的負担にはなりません。

無料で専門性を高められる機会として、積極的に活用することをおすすめします。

転職時にも活用できる

保育士等キャリアアップ研修の修了証は、保育士の専門性と意欲を客観的に示す重要な証明です。

転職活動の際、保育士等キャリアアップ研修の修了証を提示すると、自身の専門知識やスキルをアピールできます。

特に、専門分野での経験や知識が求められる求人に応募する際に有利に働く可能性があります。

また、研修で得た幅広い知識は、新しい職場でも即戦力として活躍する自信にもつながるでしょう。

キャリアアップ研修の受講は、現在の職場だけでなく、将来のキャリア形成にも大きく貢献します。

保育士等キャリアアップ研修を受講する際の注意点

保育士等キャリアアップ研修には多くのメリットがありますが、受講する際には以下の点に注意が必要です。

まず、研修修了が必ずしも即座に給料アップにつながるわけではありません。

処遇改善は、研修修了後に特定の役職に就くことで実現します。

また、施設の規模や経営状況によっては、希望する役職に就けない場合もあります。

さらに、研修受講には時間的な負担も伴います。

仕事と両立しながらの受講となるため、自己管理とタイムマネジメントが重要です。

また、研修内容を実践に活かすためには、日々の振り返りと継続的な学習が求められるでしょう。

上記の点を踏まえた上で、自身のキャリアプランと照らし合わせて計画的に受講することが大切です。

保育士等キャリアアップ研修についてよくある質問

保育士等キャリアアップ研修に関して、多くの保育士が疑問や不安を抱えています。

ここでは、よくある質問とその回答を紹介し、研修に対する理解を深めていきましょう。

保育士等キャリアアップ研修を受けないとどうなる?

保育士等キャリアアップ研修は、令和5年度(2023年度)から段階的に義務化されています。

研修を受講しないと、キャリアアップや処遇改善の機会を逃す恐れがあります。

また、保育の質向上が求められる中、専門性を高める機会を逃すことにもつながるでしょう。

園全体の評価にも影響する可能性があるため、積極的な受講が推奨されます。

保育士等キャリアアップ研修に落ちることはある?

保育士等キャリアアップ研修には、一般的な意味での「落第」はありませんが、修了証を得られない場合があります。

例えば、出席要件を満たさない、レポートを提出しない、途中退場するなどの理由で、修了と認められない場合です。

研修の全過程に真摯に取り組むことが、確実に修了証を得るための鍵となります。

まとめ

保育士等キャリアアップ研修についてお伝えしました。

  • 保育士等キャリアアップ研修の目的は、保育の質向上と保育士の処遇改善
  • 8つの専門分野から保育士の経験や役割に応じて必要な研修を受講
  • 研修修了後は、副主任保育士や専門リーダーなどの役職に就く機会が得られる
  • 処遇改善による手当は、役職に応じて月額5,000円から40,000円
  • 令和5年度から令和8年度にかけて段階的に完全実施される

保育士等キャリアアップ研修は、保育士のキャリア形成と保育の質向上に大きく貢献する重要な制度です。

この機会を最大限に活用し、自身の成長と子どもたちのより良い保育環境づくりにつなげていくことが期待されます。