スタディング 司法書士講座
主任講師 山田 巨樹
令和8年7月5日(日)に令和8年度の司法書士試験が行われました。
まずは、受験された皆様、本当にお疲れさまでした。
早速ですが、令和8年度の司法書士試験についての所感を述べさせていただきます。
1.午前多肢択一式
(1)憲法(第1問~第3問)
憲法は、いずれも難易度の高い問題でした。
第1問は「労働基本権」に関する判例からの出題でした。肢ウと肢オの正誤の判断は比較的しやすかったのではないでしょうか。肢オを軸にして肢アと肢エの検討をしていくことになります。
続く第2問は「財産権」に関する判例からの出題でした。肢ウの判例はご存じの方も多かったと思いますので、肢アと肢オの検討をしていくことになります。
第3問は、条文の知識を問う問題でした。正解である選択肢2うち、肢アの「総議員」、肢エの「天皇」については、覚えていた方も多かったのではないでしょうか。
憲法全体としては、3問中2問正解できればよいですが、1問しか正解できなくても仕方がない難易度だったと思います。
(2)民法(第4問~第23問)
第4問~第15問(民法総則と物権・担保物権)については、昨年と同様、すべての選択肢の正誤は分からなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題だと思われます。
なかでも気になったのは、第9問と第10問です。第9問は、「相隣関係」からの出題でしたが、肢アの正誤の判断は容易につきますので、肢ウと肢オの検討により解答を導いていくことになりますが、肢オはテキストにも記載のある条文知識なので、正誤の判断ができた方もいらっしゃったかと思います。
また、第10問は共有からの出題で、所在等不明共有者がいる場合の規定からも問われました。所在等不明共有者の規定も、改正されてから数年経経過しているため、肢イと肢ウの正誤の判断はできた方も多かったのではないかと思います。また、肢オは共有に関する規定ですので、正誤の判断はできたのではないかと思います。
続く第16問~第19問は債権法からの出題でした。講義の復習をしっかりとなさっていた方は、いずれも正解を導けたのではないかと思います。
第20問と第21問が親族法からの出題で、第22問と第23問が相続法からの出題でした。いずれも基本的な知識から正解を導くことができたかと思います。
(3)刑法(第24問~第26問)
刑法については、各論からのみの出題で、解きやすく感じた方も多かったのではないかと思います。
(4)会社法・商法(第27問~第35問)
第27問~第34問の「会社法」は、概ね基本的な条文の知識をもとに解ける問題が中心でした。
また、第35問の「商法」は、商人からの出題で、肢ア以外は商号に関する問われる問題でした。こちらも基本的な条文の知識をもとに解ける問題でした。
(5)まとめ
今年度の午前の部については、昨年と比べて憲法を難しく感じられた方が多かったのではないかと思います。一方で、その他の科目は昨年よりも少し易しくなった印象を受けます。そのため、今年度の午前の部の基準点は、昨年度より少し高くなる可能性があるのではないかと予想されます。
毎年お伝えしていることではありますが、司法書士試験では、過去の試験で問われた知識以外の内容が出題されることもあります。しかし、そのような場合は合格レベルにある受験生でも得点することは難しいため、合否を分けるのは「過去の司法書士試験で出題されている知識を正確かつ横断的に身につけているか」どうかです。
令和8年度の司法書士試験の合格を目指して勉強をしてきた方の中には、試験直前期の5~6月を過ごす中で「多くのことはこなせない」と実感された方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、この時期にこなすことができるのは、過去の司法書士試験で出題されていた知識と講義で紹介した改正で加わった知識程度だと思います。学習を進める中で、細かな知識が気になってしまうこともあると思いますが、まずは過去の試験で出題された知識を正確に覚え、横断的な整理を行うことが大切です。
2.午後多肢択一式
(1)民事訴訟法(第1問~第5問)・民事保全法(第6問)・民事執行法(第7問)
民事訴訟法は、近年まれにみる難易度の高い出題でした。基本的には条文の知識を中心とした出題が多いのですが、今年は判例を知っていなければ解けない問題が多かったです。5問中1問程度しか取れなくても致し方ないと思いました。
一方で、第6問の民事保全法と第7問の民事執行法については、基本的な知識を正確に覚えておけば、選択肢の組み合わせから正解を導くことができたのではないかと思います。
(2)司法書士法(第8問)・供託法(第9問~第11問)
司法書士法及び供託法は、基本的な知識からの出題でした。
(3)不動産登記法(第12問~第27問)
不動産登記法は、昨年よりも少し易しかったのではないかと思いました。つまり、第19問を除き、過去問の知識を正確に身につけていれば、正解を導き出せる内容だったのではないかと思います。
もっとも、不動産登記法の選択肢をひとつひとつ見ていくと、細かな知識が問われるものも含まれていました。そのため、それらの細かな知識に気を取られ、「過去問の知識だけでは不十分なのではないか」と感じた方もいらっしゃったかもしれません。しかし、毎年申し上げている通り、合否を分けるのは、多くの合格者が正確に覚えている知識、すなわち過去の司法書士試験で出題された知識です。
不動産登記法の多肢択一式では、記述式を解くために必要な知識よりも、さらに細かな先例の知識などが問われることが多いです。しかし、これらの細かな知識を理解し、覚えるためには、記述式の対策を通じて基本的な知識の理解を深めることが重要です。そのため、まずは記述式の学習を通じて、不動産登記法の基本的な仕組みを理解し、基礎的な知識を身につけることが大切です。その上で、過去問演習を通じて細かな知識を補完していく学習を進めていくとよいでしょう。
(4)商業登記法(第28問~第35問)
今年の商業登記法については、第34問と第35問は正解できなくても気にする必要はありません。また、第30問も難易度が高めの部類に入る問題でした。
商業登記法の多肢択一式で必要とされる知識は、記述式の対策を通じて身につく内容も多いです。そのため、記述式の学習を進める中で知識を整理し、択一式にも対応できる力を養っていくことが重要です。
また、商業登記法の学習を進める際には、会社法の知識が基礎となるため、商業登記法の勉強と並行して、該当箇所の会社法の学習を進めていただければと思います。
(5)まとめ
午後の部につきましては、民事訴訟法の影響で、全体的には昨年より難易度が高かった印象です。そのため、午後の部の合格基準点は昨年よりは下がると思われます。
今年は民事訴訟法の出題の多くが判例の知識でした。しかし、次年度以降の対策としましては、判例の知識を追っていく勉強はする必要はなく、今まで通り、過去問及び基本的な知識の習得で大丈夫です。司法書士試験対策という観点からみると、民事訴訟法の勉強に時間をかけすぎるのは得策ではないからです。
民事訴訟法のみならず、民事保全法、民事執行法、司法書士法、供託法も過去に出題されている知識をしっかりと覚えるという作業に徹していただければと思います。
午後の部の不動産登記法および商業登記法の多肢択一式については、いきなり細かな先例を覚えていくのは得策ではありません。まずは、記述式の学習を通じて、不動産登記法及び商業登記法の基本的な仕組みを理解し、基本的な知識を身につけることが大切です。その後、基本的な仕組みの理解と知識が身につけば、細かな先例も覚えやすくなっていますし、知らない先例が出た場合も、解答を導き出せる場合も増えてくるからです。
スタディングの受講生の方におかれましては、スマート問題(一問一答)とセレクト過去問を繰り返し解き、解説までしっかりと覚えることを目指してください。この作業を徹底することで、過去に出題されている知識はしっかりと身に付きます。そして、このレベルに到達すれば、自分に不足している部分が自然と見えてくるはずですので、各自で足りない部分の学習を進めていけば大丈夫です。
3.記述式
(1)不動産登記法
記述式の問題については、皆様それぞれに解答手順を確立されているかと思います。私の場合、以下の手順で解答を進めています。
- 問1と設例1前段を読み、検討すべき資料等を確認
- 問2と設例1後段を読み、検討すべき資料等を確認
- 問3及び設例2を読み、検討すべき資料等を確認
- <答案用紙>の確認
- (答案作成に当たっての注意事項)を読む
- 〔事実関係に関する補足〕を読む
- 1.~3.で確認した資料を検討しつつ、各問を仕上げていく
問1ですが、別紙2より財産分与による持分全部移転登記が必要であり、別紙3及び別紙4よりその前提として住所変更による登記名義人変更登記が必要となることは、すぐに気づけたのではないかと思います。
問2につきましても、別紙5より免責的債務引受による抵当権変更登記が必要で、別紙6をみると抵当権者が商号変更及び本店移転をしていますので、前提として抵当権登記名義人住所、名称変更登記が必要だと分かります。また、債務者の住所が旧住所のままなので、債務者の変更登記も必要だと判断できたのではないかと思います。もっとも、免責的債務引き受けにより債務者が変更となるため、債務者の変更登記は不要ではないかと考えた方もいらっしゃったかと思います。
問3ですが、別紙10で元本確定請求通知書があるため、元本確定の登記が必要だと読み取れますし、別紙12では代位弁済証書があるため、元本確定後に代位弁済による根抵当権移転登記が必要だとわかります。
(2)商業登記法
商業登記法では、いつもと変わらず、以下の手順で問題文を検討していきました。
- 問1~問6を読む
- (問題文)を読み、各問で検討すべき資料等を確認する
- <答案用紙>の確認
- (答案作成に当たっての注意事項)を読む
- (問題文)で示された資料等を読みつつ、各問を仕上げていく
問1ですが、法人の全部事項証明書の一番上の部分に何が書かれているのかを把握しておかなければならない出題でした。法人の全部事項証明書には、会社法人等番号も記載されるようになったということを把握していた方もいらっしゃったかと思います。また、講義やテキストでは、全部事項証明書の記載の紹介はしております。しかし、注意して覚えるべき箇所でもないため、覚えていなかった方もいらっしゃったのではないかと思います。
問2及び問4では、ひとまず登記できそうなものを一通り検討していきます。
問3及び問5では、「法令が定める最小限の範囲であり、議決権数の多い順」の株主を記載していきます。問3では別紙3の株主名簿に記載されている上位者をそのまま記載すればいいのですが、問5では株式の譲渡がなされているため、その譲渡が有効か否かを検討しつつ記載する必要があります。
問6の登記することができない事項として、「資本金の額の減少」、「新株予約権の消却」が問われていました。
「資本金の額の減少」ですが、官報による公告がなされていないということは発見して欲しかったと思います。
一方、「新株予約権の消却」ですが、別紙8と別紙9をみて取締役会を省略して書面決議がなされているということに気づけたか否かがポイントとなりますが、気づけなかった方も多くいたのではないかと思います。
どちらも択一で問われれば正解することができる知識ではあると思います。しかし、記述で問われると正解できないことが多々あります。これらを防ぐには、やはり基本的な知識を精度高く入れておくことに尽きると思います。
(3)まとめ
今年度の記述式の不動産登記についてですが、前提で名義変更の登記が必要か否かについては過去の試験でもたくさん問われていますし、講義の中でも実務ではとても大切な登記であることは伝えてきていますので、気づくことはできたのではないかと思います。もっとも、債務者の住所変更による抵当権の変更登記を抜かしてしまった方も意外と多くいるのではないかとも思います。全体的には、比較的易しかったと思います。
一方、商業登記法は難しかったと思います。特に登記することができない事項が問われているということは、それを発見するため、各登記事項の要件を逐一確認しながら問題文を読む必要があるので、とても大変だったと思います。
次年度以降の対策ですが、まずは、設例を通して基本的な雛形を覚えることと、雛形に関連する知識を覚えることです。その後、令和8年度から平成20年度の過去問を何度も繰り返して知識を身につけることと、資料の読み方などを学んでください。これだけで合格するために必要な知識は十分身につきます。あとは、会社法の勉強をする際に、しっかりと要件を覚えていくことが大切です。精度高く要件を覚えていると、登記することができない事項の発見も自信をもっておこなうことができるようになります。
令和8年度司法書士試験 今後の日程
| 山田 巨樹 講師 (司法書士・スタディング 司法書士講座 主任講師)
司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。その後、大手法律事務所勤務を経て独立し、東村山司法書士事務所を開設。2014年、「スタディング 司法書士講座」を開発。実務の実例を交えた解説がわかりやすいと好評。スタディング 司法書士講座では、長年の指導経験をもとに、短期合格のノウハウを提供している。
山田 巨樹講師の紹介はこちら
|