株式会社を各当事会社とする合併において,合併比率の不公正は合併無効の訴えに係る無効原因とはならないという見解がある。次のアからオまでの各記述のうち,この見解の論拠としてふさわしくないものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.合併比率の算定に当たっては,多くの事情を勘案しなければならず,その算定の方式にも種々のものがある。
イ.株主総会の決議の方法が法令又は定款に違反するときは,その違反は,その決議の取消事由となる。
ウ.反対株主は,原則として,会社に対し,株式買取請求権を行使することができる。
エ.会社は,原則として,一定の期間内に異議を述べた債権者に対し,弁済し,又は相当の担保を提供しなければならない。
オ.株主総会の特別決議があれば,募集株式を引き受ける者に特に有利な払込金額で募集株式を発行することができる。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ エ 4.ウ エ 5.ウ オ
解答:3
ア 論拠としてふさわしい
記述アは合併比率の算定には多くの事情・種々の算定方式を検討しなければならないというものであるため、単に合併比率が不公正であったとしても合併を無効とすべきではないという見解となります。
したがって、記述アは設問の見解の論拠としてふさわしいといえます。
イ 論拠としてふさわしくない
株主総会の決議の方法が法令・定款違反のときに取消事由となることと、合併比率の不公正が合併無効の訴えに係る無効原因とならないこととは無関係です。
したがって、記述イは設問の見解の論拠としてふさわしくないといえます。
.株主総会の決議の方法が法令又は定款に違反するときは,その違反は,その決議の取消事由となる。
ウ 論拠としてふさわしい
吸収合併に反対する株主は、買取請求権を行使することができます(785条1項、797条1項)。そのため、合併比率が不公正であり、これに不満のある株主は、合併無効の訴えではなく買取請求権を行使することで自己の権利を守ることができ、多くの影響を及ぼす合併を無効とすべきではないということができます。
したがって、記述ウは設問の見解の論拠としてふさわしいといえます。
エ 論拠としてふさわしくない
合併契約には記述エのとおり債権者保護の手続が規定されています。しかし、合併比率の不公正によって利益を害されるおそれのあるのは当事会社の株主であり、債権者保護の規定があることと、合併比率の不公正が合併無効の訴えに係る無効原因とならないこととは無関係です。
したがって、記述エは設問の見解の論拠としてふさわしくないといえます。
オ 論拠としてふさわしい
合併契約には、株主総会の特別決議が必要です(783条1項、795条1項、309条2項12号)。他方で、記述オのとおり、特別決議によれば有利発行すら可能なのであるから、同様の手続を必要とする合併の合併比率が不公正であることを無効事由とすべきではないということができます。
そのため、記述オは設問の見解の論拠としてふさわしいといえます。