株式会社の発起人の責任に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。
1.発起人の一人からの財産引受けに係る契約が締結された場合において,会社の成立の時におけるその目的財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足するときは,その財産引受けに関する事項について裁判所が選任した検査役の調査を経たときでも,他の発起人は,会社に対し,その不足額を支払う義務を負う。
2.募集設立において発起人の一人が現物出資をした場合において,会社の成立の時における現物出資財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足するときでも,他の発起人は,その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは,会社に対し,その不足額を支払う義務を負わない。
3.発起人がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったことにより第三者に生じた損害を賠償する責任を負うときは,総株主の同意によっても,これを免れることができない。
4.会社が成立しなかった場合において,発起人がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは,その発起人は,会社の設立に関して支出した費用を負担しない。
5.発起人が会社の設立についてその任務を怠り,これによって会社に損害を生じさせた場合において,その会社について設立を無効とする判決が確定したときは,その発起人は,会社に対し,損害を賠償する責任を負わない。
解答:3
1 誤り
財産引受け(28条2号)がされる場合に、その目的財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足するとき、発起人は株式会社に対し不足額を支払う義務を負います(52条1項)。
しかし、裁判所が選任した検査役の調査を経たとき、他の発起人は支払義務を負いません(52条2項1号)。
したがって、記述1は誤っています。
2 誤り
発起設立の場合で発起人の一人が現物出資をした場合、その現物出資財産の価額が定款に記載された価額に著しく不足するとき、他の発起人はその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとき、不足額の支払義務を負いません(52条2項2号)。
しかし募集設立においては、株式引受人の保護の観点から、52条2項2号の適用はなく(103条1項)、他の発起人も支払義務を負うことになります。
したがって、記述2は誤っています。
3 正しい
発起人の対第三者責任(53条2項)は、総株主の同意によっても免除することができません(55条)。
したがって、記述3は正しいといえます。
4 誤り
会社不成立の場合の責任には、無過失の証明による責任の免除の規定はありません(56条)。そのため、会社不成立の場合、発起人は常に、会社の設立に関して支出した費用を負担することになります。
したがって、記述4は誤っています。
5 誤り
発起人は、会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(53条1項)。
この任務懈怠責任が生じた後、会社について設立を無効とする判決が確定したとしても、将来に向かって効力を失うのであって(839条)、上記の任務懈怠責任が消滅することにはなりません。なお、設立無効判決の確定により直ちに法人格が消滅するのではなく、清算手続が開始されるので(475条2号)、設立無効判決確定後、上記任務懈怠責任は清算株式会社が追及することになります。