株式に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.他人の承諾を得てその名義を用いて募集株式の引受けがされた場合には,特段の事情がない限り,その名義の使用を承諾した者が株主となる。
イ.株券発行会社が株券として会社法所定の要件を満たす文書を作成した場合には,その文書は,株主に交付される前であっても,株券としての効力を有する。
ウ.会社の承認を得ないで譲渡制限株式を譲渡担保に供した場合には,その譲渡担保権の設定は,契約当事者間においては有効である。
エ.会社と従業員との間で,従業員の退職に際してはその有する当該会社の譲渡制限株式を会社の指定する者に譲渡する旨の合意をした場合には,その合意は,無効である。
オ.新株発行の無効の訴えにおいて,会社法所定の出訴期間の経過後に新たな無効事由を追加して主張することは,許されない。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ
解答:4
ア 誤り
判例は、「他人の承諾を得てその名義を用い株式を引受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となる」としています(最判S42.11.17)。
したがって、記述アは誤っています。
イ 誤り
判例は、「(現:会社法215条にいう)「株券の発行とは、会社が商法二二五条(現:会社法216条)所定の形式を具備した文書を株主に交付することをいい、株主に交付したとき初めて該文書が株券となる」としています(最判S40.11.16)。
したがって、記述イは誤っています。
ウ 正しい
判例は、譲渡制限株式を譲渡担保に供した事案につき、「取締役会の承認をえずになされた株式の譲渡は、会社に対する関係では効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効である・・・株式を譲渡担保に供することは、・・・株式の譲渡にあたると解すべきであるから、叙上の場合と同様、株式の譲渡につき定款による制限のある場合に、株式が譲渡担保に供されることにつき取締役会の承認をえていなくとも、当事者間では、有効なものとして、株式の権利移転の効力を生ずる」としています(最判S48.6.15)。
したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 誤り
判例は、いわゆる従業員持株制度として、退職に際して、同制度に基づいて取得した株式を額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の合意は、具体的な事情のもとで、127条に違反せず、公序良俗には反しないため有効であるとしています(最判H7.4.25)。
したがって、記述エは誤っています。
オ 正しい
判例は、「新株発行の無効の訴えにおいて、商法二八〇条ノ一五第一項(現:会社法828条1項2号)の出訴期間経過後に新たな無効の事由を追加して主張することは許されない」としています(最判H6.7.18)。その理由としては、「右規定が出訴期間を新株発行の日から六箇月内に制限したのは、新株発行に伴う複雑な法律関係を早期に確定することにあるところ、新たな無効の事由を右期間後も主張することができるものとすると、右の法律関係が不安定になり右規定の趣旨が没却されることになるから、右規定は無効の事由の主張をも制限したものと解する」としています。
したがって、記述オは正しいといえます。