民訴法-異議権(責問権)
予備試験平成28年 第33問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

民事訴訟に関する異議権(責問権)に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。


ア.当事者は,訴訟手続に関する規定の違反についての異議を述べる権利を放棄しようとするときは,その旨を書面に記載し,これを裁判所に提出しなければならない。

イ.当事者は,訴訟手続に関する規定の違反についての異議を述べる権利につき,具体的な違反が実際に生じるより前にあらかじめその放棄をすることができる。

ウ.判決の言渡しが公開の法廷で行われなかった場合,当事者は,そのことを知りながら,遅滞なく異議を述べないときであっても,異議を述べる権利を失わない。

エ.訴えの変更の書面が被告に送達されなかった場合,当事者は,そのことを知りながら,遅滞なく異議を述べないときであっても,異議を述べる権利を失わない。

オ.宣誓をさせるべき証人を宣誓させないで尋問した場合,当事者は,そのことを知りながら,遅滞なく異議を述べないときは,異議を述べる権利を失う。


1.ア イ  2.ア ウ  3.イ エ  4.ウ オ  5.エ オ



解答・解説

解答:4

ア 誤り

90条は「当事者が訴訟手続に関する規定の違反を知り、又は知ることができた場合において、遅滞なく異議を述べないときは、これを述べる権利を失う。ただし、放棄することができないものについては、この限りでない。」と定めており、異議を述べる権利の放棄のために書面を提出する必要はありません。

したがって、記述アは誤っています。

イ 誤り

責問権とは、手続違反により不利益を受ける当事者が、その違反した行為ないし手続に対し異議を述べ、その効力を争う権利のことをいい、90条が「違反を知り、又は知ることができた場合」と定めていることからすると、具体的な違反が実際に生じた後に限り、(その違反の性質によっては)放棄が認められることを前提としていると解されます。

したがって、具体的な違反が実際に生じるより前にあらかじめその放棄をすることができるとした記述イは誤っています。

ウ 正しい

当事者の利益保護を主たる目的とする規定の違反であれば、それにより不利益を受ける当事者が不利益を問題としないのであればその違反に対する責問権の放棄を認めることができると解されます。他方で、公益性の強い規定の違反については、当事者の態度によってその行為の効力が決定されるべきではないため、放棄は認められないということになります。

判決の言渡しが公開の法廷で行われることは憲法上の要請でもあり、公益性の強い規定であるといえます。そのため、判決の言渡しが公開の法廷で行われなかった場合、当事者が、そのことを知りながら異議を述べなかったとしても、異議を述べる権利を失いません。

したがって、記述ウは正しいといえます。

エ 誤り

判例は、訴状が被告に送達する前に、被告が死亡しており、その被告の相続人がなんらの異議を述べずに訴訟承継の手続を採って訴訟行為を行った事案において、「被告たるDの訴訟を承継する手続をとりこれを承継したものとして、本件訴訟の当初からなんらの異議を述べずにすべての訴訟手続を遂行し、その結果として、被上告人の本訴請求の適否について、第一、二審の判断を受けたものである。このように、第一、二審を通じてみずから進んで訴訟行為をした前記上告人三名が、いまさら本件訴訟の当事者(被告)が死者であるDであつたとしてみずからの訴訟行為の無効を主張することは、信義則のうえから許されない」(最判S41.7.14)としています。

この判例の趣旨からすると、訴えの変更の書面が被告に送達されず、当事者がそのことを知りながら遅滞なく異議を述べなかった場合、異議を述べる権利を失うといえます。

したがって、記述エは誤っています。

オ 正しい

判例は、「宣誓せしむべき証人を宣誓せしめずして尋問した場合と雖も、当事者が遅滞なく異議を述べないときは、責問権を失つたものというべきである。」としています(最判S29.2.11)。

したがって、記述オは正しいといえます。

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