Xは,Yに対し,Yの代理人Zとの間で,Yが所有する甲土地の売買契約を締結したと主張して,売買契約に基づき甲土地の所有権移転登記手続を求める訴えを提起した。この場合において,次のアからオまでのYの各陳述のうち,当該訴えの請求原因に対する抗弁となり得るものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.Yは,Zに対して,代理権を授与したことはない。
イ.YがZに対して授与した代理権は,甲土地について賃貸借契約を締結することについてのものである。
ウ.XとZとの間で甲土地の売買契約が締結される前に,YとZとの合意によりZへの授権は撤回されている。
エ.甲土地の売買契約に係るZの意思表示は,XのZに対する詐欺に基づいてされたものであるので,これを取り消す。
オ.Zが甲土地についての売買契約を締結した相手方は,Xではなく,Xの息子であるAである。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ エ
解答:5
Xの請求は、(有権代理による)売買契約に基づく甲土地の所有権移転登記手続訴訟であり、その請求原因は、①XZ間での売買契約締結、②顕名、③①に先立つ代理権授与です。
そして抗弁は、請求原因と両立し、請求原因の効果を覆滅(阻止・消滅)させる事実をいいます。
ア 抗弁とはなり得ない
Zが代理権を授与していないという主張は、請求原因③を否定するものですので、否認に当たります。
したがって、記述アは抗弁とはなり得ません。
イ 抗弁とはなり得ない
請求原因③は、売買契約の代理権を授与したというものですので、代理権の内容が異なるとの主張は、これを否定するものですので、否認(理由付き否認)に当たります。
したがって、記述イは抗弁とはなり得ません。
ウ 抗弁となり得る
代理権がいったん発生したが、後に消滅したという主張は、有権代理の主張と両立し、その効果を消滅させるものであるため、抗弁に分類されます(代理権消滅の抗弁)。
撤回とは、一度した行為を後に無かったものとする行為をいいます。売買契約が締結される前に授権が撤回されたという主張は、代理権消滅の抗弁に当たります。
したがって、記述ウは抗弁となり得ます。
エ 抗弁となり得る
詐欺による意思表示は取り消すことができますが(民法96条1項、101条1項)、取り消すまでは有効ですので、請求原因と両立します。そして取り消した場合、売買契約は無効となるため(民法121条)、請求原因の効果を消滅させるものといえます。
したがって、記述エは抗弁となり得ます。
オ 抗弁とはなり得ない
売買契約の相手方がXではないという主張は、請求原因①を否定するものです。Xの息子であるAであるという主張ですので、理由付き否認に当たります。
したがって、記述オは抗弁とはなり得ません。