指名債権の譲渡に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.債権譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,債務者が譲渡を承諾した場合を除き,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することができる。
イ.債権の譲受人は,譲渡人に代位して債務者に対して債権譲渡の通知をすることにより,その債権譲渡を債務者に対抗することはできない。
ウ.抵当不動産の第三取得者が被担保債権の弁済をしたことによって抵当権が消滅した場合,その後,被担保債権の債権者がその債権を第三者に譲渡し,債務者が異議をとどめないで債権譲渡を承諾しても,当該第三取得者に対する関係においては,抵当権の効力は復活しない。
エ.債権が二重に譲渡され,第一の債権譲渡について譲渡人が債務者に対して確定日付のある証書によらずに通知をした後に,第二の債権譲渡について譲渡人が債務者に対して確定日付のある証書による通知をした場合,第一の譲受人は債権の取得を債務者にも対抗することができない。
オ.債権が二重に譲渡され,確定日付のある証書による通知が同時に債務者に到達したときは,譲受人の一人から弁済の請求を受けた債務者は,同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責任を免れることができる。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ エ 4.ウ エ 5.ウ オ
解答:2
ア 誤り
判例は、「譲渡禁止の特約は、債務者の利益を保護するために付されるものと解される。そうすると、譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は、同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって、債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り、その無効を主張することは許されない」としています(最判H21.3.27)。
この判例の趣旨によると、債務者が譲渡を承諾していない場合、譲渡禁止特約に反して譲渡した債権者は、原則として譲渡の無効を主張することができません。したがって、記述アは誤っています。
イ 正しい
債権譲渡の通知は、譲渡人が債務者に対してすることとされており、譲受人が譲渡人に代位して債権譲渡の通知をすることはできないと解されています(大判S5.10.10)。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 正しい
被上告人=抵当不動産の第三取得者、上告人A=被担保債権の譲受人、上告人B=債務者、甲=被担保債権の譲渡人である事案において、判例は、「本件抵当権は、被上告人がその被担保債権である本件貸付金債権を代位弁済したことによって消滅したところ、上告人Aがその後に甲から当該貸付金債権の譲渡を受け、債務者である上告人Bが異議を留めずに債権譲渡を承諾しても、これによって上告人Bが上告人Aに対して本件貸付金債権の消滅を主張し得なくなるのは格別、抵当不動産の第三取得者である被上告人に対する関係において、その被担保債権の弁済によって消滅した本件抵当権の効力が復活することはない」としています(最判H4.11.6)。
したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 正しい
確定日付のある証書による通知は第三者対抗要件(467条2項)であって、債務者対抗要件は必ずしも確定日付のある証書による必要はありません(同条1項)。
もっとも、債権が二重譲渡され、第一の譲渡については確定日付の無い証書による通知、第二の譲渡については確定日付のある証書による通知がされた場合、第二の譲受人が第一の譲受人に対し債権取得を対抗できるため(467条2項)、債務者としても優先する債権者を確知できることとなり、その結果、第一の譲受人は債権の取得を債務者にも対抗できないことになると解されています(大連判T8.3.28)。
記述エの事案において、第一の譲受人は、確定日付のある証書によらない通知により債務者対抗要件を備えていますが、その後に第二の債権譲渡について確定日付のある証書による通知があったことから、結果として、第一の譲受人は債権の取得を債務者に対抗することができなくなります。したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
債権が二重に譲渡され、双方ともに確定日付のある証書による通知がされた場合、その到達した先後によって決せられますが(最判S49.3.7)、同時に到達したときは、各譲受人は、債務者に対し、それぞれがその全額の弁済を請求できると解されています(最判S55.1.11)。このとき債務者は、同順位の譲受人が他に存在することを理由として、弁済を拒むことはできません(同判例)。
したがって、記述オは誤っています。