失踪宣告に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.沈没した船舶の中に在ったAについて失踪宣告がされた場合には,Aはその沈没事故の後1年が経過した時に死亡したものとみなされる。
イ.Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされた場合には,Aは,7年間の期間が満了した時に死亡したものとみなされる。
ウ.Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされ,Aが死亡したものとみなされた後にAの生存が判明した場合でも,失踪宣告がされた後にAがした売買契約は,失踪宣告が取り消されなければ有効とはならない。
エ.Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされ,Aが死亡したものとみなされた後に,Aの子であるBがA所有の甲土地を遺産分割により取得した。その後,Bは,Cに甲土地を売却したが,その売却後にAの生存が判明し,Aの失踪宣告は取り消された。その売買契約の時点で,Aの生存についてBが善意であっても,Cが悪意であるときは,Cは,甲土地の所有権を取得することができない。
オ.Aの生死が7年間明らかでなかったことから,Aについて失踪宣告がされ,Aが死亡したものとみなされた後に,Aの生存が判明したが,失踪宣告が取り消されずにAが死亡した場合には,もはやその失踪宣告を取り消すことができない。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ エ 4.ウ エ 5.ウ オ
解答:3
ア 誤り
沈没した船舶の中に在った者の生死が、船舶が沈没した後1年間明らかでないとき、失踪宣告をすることができます(30条2項)。そして失踪宣告の効力は、その危難が去った時に死亡したとみなされます(31条)。危難が去った時とは、おそらくは沈没事故の時だと考えられますが、少なくとも、記述アのように1年経過後が危難が去った時とはいえないでしょう。
したがって、記述アは誤っています。
イ 正しい
不在者の生死が7年間明らかでないとき、失踪宣告をすることができます(30条1項)。この場合の失踪宣告の効力は、生死が明らかでなくなって7年間が満了した時に、死亡したとみなされます(31条)。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
失踪宣告により、その者は死亡したものとみなされます(31条)。この意味するところは、失踪宣告がなされるまでに有していた法律関係について、その者が死亡したのと同一の効果を生じるにとどまると解されています。すなわち、失踪宣告がされたにも関わらず真実は生存しており、失踪宣告後に、失踪宣告が取り消されることなく、その者に生じた法律関係には効力を及ぼさないと解されています。
したがって、Aがした売買契約は失踪宣告が取り消されなくとも有効であるため、記述ウは誤っています。
エ 正しい
失踪宣告の取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼしません(32条1項後段)。ここでいう「善意」とは、契約において、失踪者が生存していることにつき、契約当時、当事者双方ともが善意であることをいうと解されています(大判S13.2.7)。
BCの売買契約は失踪宣告取消しの前に行われているところ、Cが甲土地の所有権を取得するためにはBC双方ともが善意である必要があります。しかしCは悪意であるため、失踪宣告の取消しによって売買契約の効力は失われ、Cは所有権を取得することができません。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
失踪宣告の取消しは、失踪者が生存していた場合だけでなく、「前条に規定する時と異なるときに死亡したことの証明があったとき」にもすることができます(32条1項)。すなわち、失踪宣告の後、Aの生存が判明し、その後死亡した場合、失踪宣告を取り消すことができます。
したがって、記述オは誤っています。