AがBに対して融資をしていたところ,Bがその所有する建物をBの妻Cに贈与し,その旨の所有権移転登記手続をしたことから,Aが詐害行為取消訴訟を提起した。この場合に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.Aは,BからCへの所有権移転登記の抹消登記手続を請求することができるほか,CからAへの所有権移転登記手続を請求することもできる。
イ.Aは,BからCへの所有権移転登記の抹消登記手続を請求することなく,BC間の贈与契約の取消しを請求することができる。
ウ.Aは,詐害行為の取消しを請求するに際しては,B及びCの両方を被告として訴えを提起しなければならない。
エ.Aは,BC間の贈与契約が債権者であるAを害すること及びそのことをB及びCが知っていたことを主張・立証しなければならない。
オ.Aは,BC間の贈与契約の当時Bが無資力であったことを主張・立証すれば足り,詐害行為取消訴訟の口頭弁論終結時までにBの資力が回復したことは,Cが主張・立証しなければならない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ オ
解答:4
ア 誤り
事情が少々異なりますが、Yは、Xに対し、「Yが生存中は甲土地の所有権を他者に移転してはならない」という債務を負っていたにも関わらず、甲土地をZに贈与したことから、Xが当該贈与を詐害行為取消権に基づき取り消した事案において、判例は、ZからXへの移転登記請求を認めませんでした。そして、YからZへの移転登記の抹消を認めることが、すべての債権者の利益のために」という425条の趣旨に沿う原則と考えられます。
したがって、記述アにおいて、BからCへの所有権移転登記の抹消登記手続を請求することは可能ですが、CからAへ、直接所有権移転登記手続を請求することはできないと解されます。
(なお、判例は「特定物債権者」としていますが、一般に、被保全債権が動産の引渡請求権や金銭の支払い請求権の場合は、債権者自身への引渡し又は支払いを請求できると解されています(最判S39.1.21、大判T10.6.18)ので、注意が必要です。)
判例 最判昭和53年10月5日 |
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「民法四二四条の債権者取消権は、窮極的には債務者の一般財産による価値的満足を受けるため、総債権者の共同担保の保全を目的とするものであるから、このような制度の趣旨に照らし、特定物債権者は目的物自体を自己の債権の弁済に充てることはできない」 |
イ 正しい
詐害行為取消権者は、詐害行為の取消のみを請求することもできます(大連判M44.3.24)。これにより、債権者と被告との間で、詐害行為が取り消されることになります。
すなわち、具体的にどのような方法によって自己の債権を保全するかは債権者に委ねられているといえます。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
詐害行為取消権は、債務者の法律行為と、債権者と被告との間で相対的に取り消すことにより、債務者の財産状態を回復させる権利であることから、債権者取消訴訟は、債務者ではなく、受益者又は転得者を被告とすべきとされています(大連判M44.3.24)。
したがって、債務者であるBも被告としなければならないとしている点で、記述ウは誤っています。
エ 誤り
債権者取消において、債権者は、債務者の行為が債権者を害する行為であることを、債務者が知っていたことを主張・立証する必要があります。
これに対し、受益者が、債権者を害する行為であることを知らなかったことは、受益者が抗弁として主張・立証することになります。
したがって、記述エは誤っています。
判例 最判昭和37年3月6日 |
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「民法四二四条一項但書にいわゆる受益者または転得者の善意の挙証責任は受益者または転得者自身に存するものと解すべき」 |
オ 正しい
「債権者を害する」という要件はいわゆる無資力要件とも呼ばれますが、この主張・立証責任は債権者にあります。もっとも、詐害行為取消権は債務者が無資力になることから認められるものであるため、債務者がその後資力を回復させた場合は、取消しを認める必要がなくなるといえます。そのため、債務者の資力が回復したことは抗弁として、被告である受益者・転得者に主張・立証責任があると解されています(大判T5.5.1)。
したがって、記述オは正しいといえます。