検察官が一罪の一部だけを起訴することができるかに関する次のアからオまでの各記述のうち,肯定説の立場からの論拠となり得るものには1を,肯定説の立場からの論拠となり得ないものには2を選びなさい。
ア.実体的真実の発見という刑事訴訟法の趣旨に反する。
ア
イ.検察官には,起訴,不起訴の裁量権が認められている。
イ
ウ.裁判所の訴因変更命令には形成力はないとされている。
ウ
エ.刑事訴訟法は当事者主義に立ち,訴因制度を採用している。
エ
オ.被告人に利益になる場合も多い。
オ
解答:ア.2 イ.1 ウ.1 エ.1 オ.1
ア 肯定説の立場からの論拠となり得ない
検察官が一罪の一部だけを起訴した場合、起訴されなかった部分については審理の対象とならないため、その部分の実体的真実の発見はできないことになります。そのため、実体的真実の発見という刑事訴訟法の趣旨を重視する場合、一罪の一部起訴は否定されるべきとの結論につながります。
したがって、実体的真実の発見という刑事訴訟法の趣旨に反するという記述は肯定説の立場からの論拠とはなり得ません。
イ 肯定説の立場からの論拠となり得る
公訴は検察官が行い(247条)、起訴便宜主義が採られています(248条)。これにより、検察官の判断で公訴を提起しないこともできるのであるから、一罪の一部だけを起訴することも許されることにつながります。
したがって、検察官に、起訴・不起訴の裁量権が認められていることは、肯定説の立場からの論拠となり得ます。
ウ 肯定説の立場からの論拠となり得る
事案によっては裁判所が訴因変更命令をすることがあり得ます(312条2項)。もっとも、訴因変更命令には形成力がなく、命令に検察官が従わずに訴因変更をしなかった場合、訴因は変更されず、裁判所はそのままの訴因について審理・判断しなければなりません。
このことは、審理対象を検察官が設定し、裁判所によってもそれは変更できないことを意味するため、検察官に一罪の一部だけを起訴する権限もあることにつながります。
したがって、裁判所の訴因変更命令には形成力は無いとされていることは、肯定説の立場からの論拠となり得ます。
エ 肯定説の立場からの論拠となり得る
刑事訴訟法は当事者主義に立ち(256条6項、298条1項、312条1項)、審判対象は検察官が特定の犯罪構成要件に該当するとして主張する具体的犯罪事実である訴因とされています。
このことも、記述ウと同様、審判対象を一方当事者である検察官のみが設定できることを意味しているため、肯定説の立場からの論拠となり得ます。
オ 肯定説の立場からの論拠となり得る
一罪の一部だけを起訴するということは、つまりは犯罪(として疑われる事実)のうち一部のみを起訴することであるため、被告人に利益になる場合があり得、不利益にはなりにくいと考えられます。すなわち、被告人に利益になる場合も多いのであるから、一罪の一部だけを起訴することを許してもよいのではないか、という意味で、肯定説の立場からの論拠となり得ます。