告訴に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。ただし,判例がある場合には,それに照らして考えるものとする。
ア.Aが暴行を用いて性交された場合,Aの夫は,「犯罪により害を被った者」として告訴権を有する。
イ.被害者の法定代理人がした告訴を被害者本人が取り消すことはできない。
ウ.告訴は,適法に受理された後はこれを取り消すことができない。
エ.器物損壊罪の被害者が犯人をXと指定して告訴したが,捜査の結果,犯人はYであることが判明した場合,その告訴はYに対して有効である。
オ.一通の文書でA及びBの名誉が毀損された場合,Aがした告訴の効力は,Bに対する名誉毀損の事実には及ばない。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ
解答:2
ア 誤り
※法改正に伴い、問題文を変更しています。
「犯罪により害を被った者」は当該犯罪の被害者をいい、強制性交等罪の被害者の夫はこれに含まれません(大判M44.6.8は妻に対する名誉棄損につき、その夫は被害者ではないとされています)。
したがって、記述アは誤っています。
イ 正しい
被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができます(231条1項)。「独立して」とは、本人の意思と無関係にという意味であるため、法定代理人のした告訴を本人が取り消すことはできないと解されます。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができます(237条1項)。
したがって、記述ウは誤っています。
エ 正しい
告訴は、犯罪事実につき犯人の処罰を求める旨の意思表示であり、判例は、告訴には必ずしも犯人を特定する必要はなく、犯人を誤っていても有効であるとしています(大判S12.6.5)。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 正しい
238条は告訴不可分の原則を定めたものと解され、主観的不可分の原則が明示的に定められているのみですが、客観的不可分の原則も定めていると解されます。
客観的不可分の原則からは、一通の文書でA及びBの名誉棄損がされた記述オの場合、観念的競合により、一罪となります。そのため、Aがした告訴の効力が、Bに対する名誉棄損の事実にも及ぶとも思われます。
しかし、告訴は被害者自身が、犯人の処罰を求める意思表示をするものであることから、被害者が異なる場合には、客観的不可分の原則は、告訴をしなかった被害者に対する犯罪には適用されないと解されます。したがって、Aがした告訴の効力は、Bに対する名誉棄損の事実には及ばないこととなり、記述オは正しいといえます。