憲法の意義に関する次のアからエまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。
ア.日本国憲法の前文は,国民主権,基本的人権の尊重,平和主義の3つの基本原理を明らかにしており,憲法の一部をなすものであって,当該規定を根拠に裁判所に救済を求めることができるという意味で,最高裁判所の判例においても裁判規範性が認められている。
ア
イ.「憲法」が成文の憲法を指す場合に,「形式的意味の憲法」と呼ばれるが,この意味の憲法は,その内容において人権保障に関する規定が含まれているかどうかを問わない。
イ
ウ.国家であれば,権力の組織や構造が定まっていると考えられ,この意味では全ての国家は憲法を持つと言われるが,この場合の「憲法」は,「固有の意味の憲法」と呼ばれる。
ウ
エ.1789年フランス人権宣言第16条において,権利の保障が確保されず,権力の分立が定められていない社会は,全て憲法を持つものではない旨が示されているが,この場合の「憲法」は,「立憲的意味の憲法」あるいは「近代的意味の憲法」と呼ばれる。
エ
解答:ア.2 イ.1 ウ.1 エ.1
ア 誤り
日本国憲法の前文には、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の3つの基本原理が明らかにされており、憲法の一部をなすものと解されています。
もっとも、前文の定めを根拠に裁判所に救済を求めることができるとは解されておらず、裁判例(札幌高判S51.8.5)も「前文中に定める「平和のうちに生存する権利」も裁判規範として、なんら現実的、個別的内容をもつものとして具体化されているものではないというほかない」として裁判規範性を否定しています。前文について触れた最高裁判例もありますが(最大判S34.12.16)、他の条項と併せて解釈をしているに過ぎず、前文に裁判規範性を認めたものではありません。
したがって、記述アは誤っています。
イ 正しい
形式的意味の憲法とは、存在形式による概念であって、憲法の内容には関係がありません。そのため、人権保障に関する規定が含まれているか否かは関係が無いということになります。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 正しい
形式的意味の憲法に対し、内容に着目した分類が実質的意味の憲法です。実質的意味の憲法のうち、固有の意味の憲法とは、国家統治の基本を定めた法であり、国家の存在するところに存在する法を指すものといえます。
そのため、権力の組織や構造が定まっている国家には、「憲法」という名前であるか否かにかかわらず、固有の意味の憲法が存在するといえます。
したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 正しい
実質的意味の憲法のうち、立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)とは、権力を制限することにより国民の自由を保障しようという立憲主義に基づく憲法を指します。そのため、権力の分立が定められていない社会には、立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)が存在しないということになります。
したがって、記述エは正しいといえます。