刑法-不真正不作為犯の作為義務
予備試験平成28年 第3問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

学生A,B及びCは,不真正不作為犯の作為義務違反に関して次の【会話】のとおり検討している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。ただし,【会話】中の「法律上の防止義務」とは,法令,法律行為,条理等に基づき法益侵害を防止する法的義務をいい,また,いずれの事例も結果回避は容易であったとする。


【会話】

学生A.「甲は,人通りの多い市街地で自動車を運転していた際,誤って乙を跳ねて重傷を負わせたが,怖くなったことから,乙を放置したまま逃走したところ,乙が死亡した。」という事例において,殺人罪の成否に関し,不真正不作為犯の作為義務を検討してみよう。私は,不真正不作為犯の作為義務違反は,法律上の防止義務を負う者が,法益侵害への因果関係を具体的・現実的に支配している状況下で防止措置を採らなかった場合に認められると考えるので,甲には作為義務違反が①(a.認められる・b.認められない)ことになる。

学生B.私は,不真正不作為犯の作為義務違反は,法律上の防止義務を負う者が,既に発生している法益侵害の危険を利用する意思で防止措置を採らなかった場合に認められると考えるので,この事例では,甲には作為義務違反が②(a.認められる・b.認められない)ことになる。

学生C.私は,不真正不作為犯の作為義務違反は,法益侵害に向かう因果の流れを自ら設定した者が,その法益侵害の防止措置を採らなかった場合に認められると考えるので,この事例では,甲には作為義務違反が③(a.認められる・b.認められない)ことになる。

学生A.次に,「一人暮らしをしている丙は,自宅に遊びに来ていた丁が帰った後,丁のたばこの火の不始末でカーテンが燃えているのに気付いたが,家に掛けてある火災保険の保険金を手に入れようと考え,そのまま放置して外出したところ,カーテンの火が燃え移って家が全焼した。」という事例において,非現住建造物等放火罪の成否に関し,不真正不作為犯の作為義務を検討してみよう。C君の立場からだと,丙には作為義務違反が④(a.認められる・b.認められない)ことになるよね。

学生B.先ほど話した私の立場からは,今の事例では,丙には作為義務違反が⑤(a.認められる・b.認められない)ことになる。


1.①a ②b ③a ④a ⑤b

2.①a ②a ③b ④a ⑤b

3.①b ②a ③a ④b ⑤b

4.①b ②b ③a ④b ⑤a

5.①b ②b ③b ④a ⑤a



解答・解説

解答:4

「甲は,人通りの多い市街地で自動車を運転していた際,誤って乙を跳ねて重傷を負わせたが,怖くなったことから,乙を放置したまま逃走したところ,乙が死亡した。」

① b.認められない

学生Aの見解は、法律上の防止義務を負う者が、法益侵害への因果関係を具体的・現実的に支配している状況であるときに不真正不作為犯の作為義務が認められるという見解です。

甲は自動車を運転して乙を跳ねているため、道路交通法に基づく救護義務を負うことになります。しかし、その現場は人通りの多い市街地であることから、甲が乙の死という法益侵害への因果関係を、具体的現実的に支配している状況とはいえません。そのため、甲には殺人罪の不真正不作為犯の作為義務が認められません。

したがって、学生Aの見解からは甲には作為義務違反が認められないことになります。

② b.認められない

学生Bの見解は、法律上の防止義務を負う者が、既に発生している法益侵害の危険を利用する意思で防止措置を採らなかった場合に作為義務違反が認められるという見解です。

上記①と同様、甲には法律上の防止義務があります。しかし、甲は事故を利用して乙を死に至らしめようとしたわけではなく、単に怖くなったことから放置したに過ぎません。そのため、既に発生している法益侵害の危険を利用する意思は無かったといえます。

したがって、学生Bの見解からは甲には作為義務違反が認められないことになります。

③ a.認められる

学生Cの見解は、法益侵害に向かう因果の流れ自ら設定した者に作為義務を認める見解です。

甲は自ら自動車を運転して乙を跳ねており、乙の死という法益侵害に向かう因果の流れを自ら設定(発生)させたといえます。そのため、甲には殺人罪の不真正不作為犯の作為義務が認められることになります。

そのうえで放置して逃走していることから、甲には作為義務違反が認められることになります。

「一人暮らしをしている丙は,自宅に遊びに来ていた丁が帰った後,丁のたばこの火の不始末でカーテンが燃えているのに気付いたが,家に掛けてある火災保険の保険金を手に入れようと考え,そのまま放置して外出したところ,カーテンの火が燃え移って家が全焼した。」

④ b.認められない

丙は、自宅ではありますが、カーテンに燃え移った火の不始末は丁の行為であるため、法益侵害に向かう因果の流れを自ら設定したとはいえません。そのため、学生Cの見解からは作為義務が認められないことになります。

⑤ a.認められる

燃えているのは丙の自宅であるため、それが賃貸であれ所有であれ、公共の危険を発生させない法律上の防止義務があるといえます。そして、既に発生しているカーテンの火を利用して火災保険の保険金を手に入れようという意思のもと、放置して外出していることから、学生Bの見解からは作為義務違反が認められることになります。

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