次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。
1.中止未遂が成立するためには,行為者が自己の行為のみで結果発生を防止する必要がある。
2.既遂犯が成立する場合にも,結果発生防止のための真摯な努力をしていれば,中止未遂が成立する。
3.窃盗の目的で他人の住居に侵入して物色行為を行った場合,住居に侵入した行為について成立する犯罪と物色行為について成立する犯罪は科刑上一罪の関係に立つので,財物の窃取を自己の意思により中止すれば,いずれの犯罪にも中止未遂が成立する。
4.予備罪に中止未遂の成立する余地はない。
5.中止未遂の刑は,刑法第43条ただし書により,任意的に減軽又は免除される。
解答:4
1 誤り
古い判例には、犯人単独で結果発生を防止をする必要は無いが、少なくとも犯人自身が、結果発生を防止するに足る努力を払う必要があるとしたうえで、放火のあと知人に放火したからよろしく頼むと言って走り去った事案において、中止犯の成立を認めませんでした(大判昭和12年6月25日)。中止のための「真摯な努力」が必要とする見解だと言われています。
この判例を前提とすると、自己の行為のみで結果発生を防止する必要があるわけではないことになります。したがって、記述1は誤っています。
2 誤り
中止未遂(中止犯)は、「これを遂げなかった者」の規定です。すなわち、既遂に達している場合には中止未遂は成立しません。したがって、記述2は誤っています。
43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
3 誤り
窃盗目的で住居に侵入し、その後窃盗を行った場合、住居侵入罪と窃盗罪とは牽連犯となり科刑上一罪の関係に立ちます。したがって、記述3前段は正しいといえます。
窃盗が未遂の段階で中止犯が成立する場合は、窃盗未遂について中止犯となりますが、既遂に至っている住居侵入罪については中止犯が成立しません。そのため、住居侵入罪(既遂)と窃盗未遂罪(中止犯)とが牽連犯となります。したがって、いずれの犯罪にも中止未遂が成立するとしている記述3後段は誤っています。
4 正しい
最高裁は予備罪には中止犯は成立しないとしています。学説からは、予備罪は一種の挙動犯であり、予備行為があれば直ちに既遂になるから、中止の概念をいれる余地がないなどと説明されています。したがって、記述4は正しいといえます。
判例 最大判昭和29年1月20日 |
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「予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものである」 |
5 誤り
中止犯(中止未遂)が成立する場合(43条ただし書き)の減軽又は免除は必要的です。したがって記述5は誤っています。