刑法-罪数
予備試験平成27年 第12問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。


1.甲は,酒に酔った状態で,自動車を無免許で運転した。甲には酒酔い運転の罪と無免許運転の罪が成立し,これらは観念的競合となる。


2.甲及び乙は,対立する暴走族の構成員を襲撃することを共謀し,同構成員であるX,Y及びZに対し,殴る蹴るの暴行を加え,それぞれに傷害を負わせた。甲及び乙にはそれぞれ3個の傷害罪が成立し,これらは併合罪となる。


3.甲は,乙がX及びYを殺害するつもりでいることを知ったことから,凶器としてナイフ1本を乙に手渡したところ,乙は,同ナイフを用いてX及びYを殺害した。甲には2個の殺人幇助の罪が成立し,これらは併合罪となる。


4.甲は,離婚した元妻Xを殺害する目的で,深夜,Xの母親Y宅に侵入し,その場にいたX,Y及びYの子Zを順次殺害した。甲には1個の住居侵入罪と3個の殺人罪が成立するが,住居侵入罪と各殺人罪は牽連犯となり,全体が科刑上一罪となる。


5.甲は,身の代金を得る目的でXを拐取し,更にXを監禁し,その間にXの近親者に対して身の代金を要求した。甲には身の代金目的拐取罪,拐取者身の代金要求罪及び監禁罪が成立し,身の代金目的拐取罪と拐取者身の代金要求罪は牽連犯となり,これらの各罪と監禁罪は併合罪となる。



解答・解説

解答:3

1 正しい

判例によると、酒酔い運転の罪と無免許運転の罪は観念的競合となります。したがって、記述1は正しいといえます。

判例 最大判昭和49年5月29日
「刑法五四条一項前段の規定は、一個の行為が同時に数個の犯罪構成要件に該当して数個の犯罪が競合する場合において、これを処断上の一罪として刑を科する趣旨のものであるところ、右規定にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう」
無免許で、かつ、酒に酔つた状態であつたことは、いずれも車両運転者の属性にすぎないから、被告人がこのように無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転したことは、右の自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに一個の車両運転行為(である)」


2 正しい

判例によると、記述2のような事案において、被害者それぞれに対する傷害罪(又は暴行罪)が成立し、これらは併合罪となるとされています。したがって、記述2は正しいといえます。

判例 最決昭和53年2月16日
「数人共同して二人以上に対しそれぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と暴行を受けるにとどまつた者の数だけの暴力行為等処罰に関する法律一条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきである」


3 誤り

判例によれば、幇助犯に成立する罪の個数は正犯の罪の個数に従うが、観念的競合にいう1個の行為といえるか否かは幇助行為自体で判断するとされています。そして、正犯に成立する数個の罪が併合罪であったとしても、幇助行為が1個といえるのであれば、数個の幇助罪は観念的競合となるとされています。

記述3において、正犯である乙には2個の殺人罪が成立するため、甲には2個の殺人幇助罪が成立します。しかし、幇助行為としては乙にナイフ1本を渡すというもので、1個であるといえるため、2個の殺人幇助罪は観念的競合となります。したがって、記述3は誤っています。

判例 最決昭和57年2月17日
「幇助罪は正犯の犯行を幇助することによつて成立するものであるから、成立すべき幇助罪の個数については、正犯の罪のそれに従つて決定されるものと解するのが相当である。」
「幇助罪が数個成立する場合において、それらが刑法五四条一項にいう一個の行為によるものであるか否かについては、幇助犯における行為は幇助犯のした幇助行為そのものにほかならないと解するのが相当であるから、幇助行為それ自体についてこれをみるべきである。本件における前示の事実関係のもとにおいては、被告人の幇助行為は一個と認められるから、たとえ正犯の罪が併合罪の関係にあつても、被告人の二個の覚せい剤取締法違反幇助の罪は観念的競合の関係にあると解すべきである。」


4 正しい

判例は、住居侵入の後、3人を殺害した事案において、住居侵入罪と殺人罪のそれぞれとが牽連犯の関係になるため、全体として一罪として処断すべきとしています。いわゆるかすがい現象で、住居侵入罪が「かすがい」となっています。したがって、記述4は正しいといえます。

判例 最決昭和29年5月27日
「所論三個の殺人の所為は所論一個の住居侵入の所為とそれぞれ牽連犯の関係にあり刑法五四条一項後段、一〇条を適用し一罪としてその最も重き罪の刑に従い処断すべきで(ある)」


5 正しい

判例は、記述5のとおり認めています。したがって、記述5は正しいといえます。

判例 最決昭和58年9月27日
「みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が、更に被拐取者を監禁し、その間にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪とみのしろ金要求罪とは牽連犯の関係に、以上の各罪と監禁罪とは併合罪の関係にある」

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