刑法-放火等の罪
予備試験平成26年 第8問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

放火等の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれか。


1.Aは,Bが居住する家屋に隣接する無人の倉庫に灯油をまいて放火したところ,B居住の家屋にまで延焼したが,Aは,B居住の家屋に延焼することまで予想していなかった。その倉庫がB所有のものであった場合,Aには延焼罪(刑法第111条第1項)が成立する。


2.Aは,無人の倉庫に放火しようとして,その倉庫に灯油をまいてライターで火をつけたが炎は燃え上がらず,燃焼には至らなかった。その倉庫がA所有のものであった場合,Aには非現住建造物等放火罪(刑法第109条第2項)の未遂罪が成立する。


3.Aは,無人の倉庫に放火するためにこれに使用するガソリンとライターを持ってその倉庫に向かっていたところ,Aに不審を抱いた警察官から職務質問を受け,倉庫に放火するには至らなかった。その倉庫がA所有のものであった場合,Aに放火予備罪(刑法第113条)は成立しない。


4.Aは,A所有の倉庫に放火しようと考え,その倉庫の近くの消火栓から放水できないように同消火栓に工作をしたが,放火するには至らなかった。Aには消火妨害罪(刑法第114条)が成立する。


5.Aは,無人の倉庫に灯油をまいて放火し,これを焼損したが,公共の危険は生じなかった。その倉庫が火災保険の付されたA所有のものであった場合,Aに非現住建造物等放火罪(刑法第109条第1項)は成立しない。



解答・解説

解答:3

1 誤り

延焼罪(111条1項)が成立するのは、「第百九条第二項又は前条第二項の罪を犯し、よって第百八条又は第百九条第一項に規定する物に延焼させたとき」です。

109条2項は自己所有の場合の非現住建造物等放火罪、110条2項は自己所有の場合の建造物等以外放火罪です。

Aが放火したのはB所有の建造物等以外であるため、延焼罪(111条1項)は成立しません。したがって記述1は誤っています。

2 誤り

自己所有の場合の非現住建造物等放火罪(109条2項)が成立するためには、「ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。」と定められているとおり、「公共の危険」の発生が要件となっています。

Aは自己所有の倉庫(非現住建造物)に放火してはいますが、燃焼には至っていないことから、公共の危険を生じていないといえます。

また、放火罪の未遂が罰せられるのは108条と109条1項という、「(具体的)公共の危険」の発生が要件とされていない罪です。

したがって、記述2は誤っています。

3 正しい

放火予備罪は、「第百八条又は第百九条第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。」(113条)と定められており、Aが放火しようとした自己所有の非現住建造物(109条2項)は対象外です。

したがって、Aに放火予備罪は成立しないため、記述3は正しいといえます。

4 誤り

消化妨害罪(114条)は、「火災の際に、消火用の物を隠匿し、若しくは損壊し、又はその他の方法により、消火を妨害した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。」と定められており、「火災の際に」妨害することが要件となっています。

Aは火災に先立って工作をしているため、消化妨害罪の構成要件に該当しません。したがって、記述4は誤っています。

5 誤り

自己所有の非現住建造物に放火した場合、「公共の危険」の発生が要件とされています。しかし、それが保険に付されたものであった場合には、他人の物を焼損した場合と同様に解されます(115条)。

Aが放火したのはA所有の倉庫ではありますが、火災保険が付されていることから、他人所有の倉庫と同様に解することになります。この場合、「公共の危険」の発生は要件とされていません。したがって、Aには非現住建造物等放火罪(109条1項)が成立することになるため、記述5は誤っています。

115条(差押え等に係る自己の物に関する特例)
第百九条第一項及び第百十条第一項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。

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