刑法-詐欺・横領罪等
予備試験平成26年 第12問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し,正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。


【事例】
 甲は,知人のAをだまして,A所有の土地・建物(以下「本件不動産」という。)を時価よりも割安な価格で入手した上,他人に転売してもうけを得ようと考えた。そこで,甲は,Aに対し,実際にはそのような事実はないのに,「本件不動産は,現在は公表されていないが,大規模な地盤沈下のおそれのある地域にある。」と伝えた上,「公表される前に,俺が買ってやる。」と言った。Aは,元々,本件不動産を子供に相続させるつもりであり,他人に売り渡すつもりはなかったが,甲の言葉を信じ,低額でも処分しようと思い,某月1日,甲との間で,通常の取引価額の半額程度である2000万円で本件不動産を売却する旨の売買契約を締結した。そして,甲は,同月3日,本件不動産の自己への所有権移転登記を行うとともに,本件不動産の売買代金として,現金2000万円をAに支払い,同月5日,本件不動産の引渡しを受けた。
 その後,甲は,乙との間で本件不動産に関する売買の交渉を行ったが,その過程で,乙は,甲がAをだまして相当安い価格で本件不動産を入手したことを知った。しかし,乙は,甲から,売買代金として通常の取引価額よりも低額である3000万円を提示されたことから,同月20日,甲との間で本件不動産の売買契約を締結し,同日,乙への所有権移転登記を行った。
 一方,甲は,知人の丙に前記売買代金として現金3000万円を受け取らせ,B銀行の甲名義の預金口座に直ちに同代金を入金させることとし,同月18日,その旨を丙に指示した。丙は,それまでの経緯を知らないまま,甲の指示に従い,同月20日,乙から現金3000万円を受領した。

 ところが,丙は,多額の借金を抱えており,B銀行に向かう途中,「この現金を元に一もうけして借金返済に充てよう。」と考え,競馬場に行き,乙から受領した現金の全額を馬券購入に充てた。すると,総額で1000万円のもうけが出たので,丙は,同月21日,現金3000万円をB銀行の甲名義の預金口座に入金し,もうけに相当する現金1000万円を自己の借金返済に充てて費消した。


【記述】
ア.甲には,本件不動産の自己への所有権移転登記が完了した時点で,詐欺既遂罪が成立する。

ア 

イ.甲が本件不動産の乙への所有権移転登記を行った行為には,横領罪が成立する。

イ 

ウ.乙には,本件不動産の自己への所有権移転登記が完了した時点で,詐欺既遂罪の幇助犯が成立する。

ウ 

エ.乙が本件不動産を譲り受けた行為には,盗品等有償譲受け罪が成立する。

 

オ.丙は甲に財産上の損害を与えていないので,丙に横領罪は成立しない。

 


解答・解説

解答:ア.1  イ.2  ウ.2  エ.1  オ.2

ア 正しい

Aは本来、本件不動産を売り渡すつもりがなかったにも関わらず、甲の内容虚偽の言葉を信じて錯誤に陥り、甲に売却しています。そして、不動産売買における詐欺罪の既遂時期は、占有移転時または所有権移転登記手続き完了時と解されています(大連判T11.12.15)。したがって、記述アは正しいといえます。

イ 誤り

上記アのとおり、本件不動産について、甲には詐欺罪が成立しています。その後の本件不動産の処分については、既に詐欺罪によって評価し尽くされているといえるため、別に犯罪を構成しません(不可罰的事後行為)。したがって、乙への所有権移転登記手続は、横領罪を構成しないため、記述イは誤っています。

ウ 誤り

上記アのとおり、Aから甲への所有権移転登記手続により、既に詐欺罪は既遂に達しています。そのため、この後の行為について加担したとしても、幇助犯が成立することはありません。したがって、記述ウは誤っています。

エ 正しい

乙は、甲がAをだまして本件不動産を入手したことを知りつつ、本件不動産を有償で譲り受けています。そして所有権移転登記手続も完了していることから、乙には盗品等有償譲り受け罪が成立するため、記述エは正しいといえます。

オ 誤り

甲は丙に、金銭の受領と銀行口座への入金を委託し、丙はこれを受託しています。丙はこれを競馬で増やしてから返済しようと考えて使用したと考えられます。しかし甲は、丙がこの金員を使用することは許可していないため、丙が馬券購入に使用したことは、委託の任務に背いて、権限が無いのに所有者でなければできない処分をしたものといえるため、横領行為に当たります。丙には多額の返済があったことからすると、遅滞なく補選する意思・資力があったとも認められません。したがって、横領罪が成立します。

なお、その後競馬に勝って甲の依頼通り3000万円を口座に入金したことは、犯罪成立後の事情に過ぎないといえます。

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