賄賂罪についての次の【判旨】に関する後記1から5までの各【記述】のうち,【判旨】の理解として正しいものはどれか。
【判旨】
甲は,A県警察の警部補としてA県警察X警察署地域課に勤務し,犯罪の捜査等の職務に従事していたものであるが,公正証書原本不実記載等の事件につきA県警察Y警察署長に対し告発状を提出していた者から,同事件について,告発状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金の供与を受けたというのである。警察法等の関係法令によれば,A県警察の警察官の犯罪捜査に関する職務権限は,A県警察の管轄区域であるA県の全域に及ぶと解されることなどに照らすと,甲が,X警察署管内の交番に勤務しており,Y警察署刑事課の担当する上記事件の捜査に関与していなかったとしても,甲の上記行為は,その職務に関し賄賂を収受したものであるというべきである。
【記述】
1.この【判旨】は,X警察署地域課とY警察署刑事課とは一般的職務権限を異にするが,同じA県警察内であり犯罪捜査という点で職務が密接に関連することから,甲が受けた現金の供与も甲の職務に関するものと認めたものである。
2.この【判旨】は,職務関連性の判断において,甲が所属するA県警察の警察官に対して法令が与えた一般的職務権限に属する職務行為であるか否かを重視している。
3.この【判旨】は,警察官が捜査情報を漏えいすることはそもそも禁じられているので,これが職務行為や職務密接関連行為に該当することはないと考えている。
4.この【判旨】は,甲が以前Y警察署刑事課に勤務中に扱った事件に関して,X警察署地域課に異動になった後に現金の供与を受けたとしても,供与を受けた時点で公務員である以上収賄罪が成立することを認めたものである。
5.この【判旨】は,当該事件の捜査を担当しているY警察署刑事課所属の警察官への働き掛けは,あっせん収賄罪にいう「あっせん」であり,これが職務行為や職務密接関連行為に該当することはないと考えている。
解答:2
1 誤り
この【判旨】は、職務関連性の判断において、「職務権限は、A県警察の管轄区域であるA県の全体に及ぶ」と述べています。そうすると、その区域内にあるX警察署地域課とY警察署刑事課とは、一般的職務権限を同じくしていると考えているといえます。したがって、記述1は、この【判旨】の理解としては誤っています。
2 正しい
上記1のとおり、職務権限がA県全域に及ぶことに触れ、その根拠として「警察法等の関係法令によれば」と述べています。そして、一般的職務権限を同じくするため、事件の捜査に関与していなかったとしても、職務関連性を認めています。このことから、この【判旨】は、法令が与えた一般的職務権限に属する職務行為であるか否かを重視しているといえます。したがって、記述2はこの【判旨】の理解として正しいといえます。
3 誤り
この【判旨】は、捜査関係者への働き掛けを「職務に関し」としていることから、捜査情報の漏えいについては特段触れておらず、むしろ捜査の協力があることを前提としているといえます。したがって、記述3は、この【判旨】の理解としては誤っています。
4 誤り
この【判旨】は、甲が異動になった事実を扱ったものではありません。したがって、記述4は、この【判旨】の理解としては誤っています。
5 誤り
この【判旨】は、「職務に関し賄賂を収受した」と述べていることから、捜査関係者であるY警察署刑事課所属の警察官への働き掛けは、職務行為または職務密接関連行為に該当すると考えているといえます。したがって、記述5は、この【判旨】の理解としては誤っています。