行政法-国家賠償
予備試験平成27年 第24問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

国家賠償に関する次のA及びアからウまでのかぎ括弧内の各記述は,最高裁判所の判例の中の一節を抜き出したものである。国家賠償請求の成否に係る判断について,Aの考え方と最も近い考え方を採る判例を,後記1から3までの中から選びなさい。

A 「刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留,公訴の提起・追行,起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし,逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であり,公訴の提起は,検察官が裁判所に対して犯罪の成否,刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから,起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである。」


ア.「逮捕状は発付されたが,被疑者が逃亡中のため,逮捕状の執行ができず,逮捕状の更新が繰り返されているにすぎない時点で,被疑者の近親者が,被疑者のアリバイの存在を理由に,逮捕状の請求,発付における捜査機関又は令状発付裁判官の被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があったとする判断の違法性を主張して,国家賠償を請求することは許されないものと解するのが相当である。けだし,右の時点において前記の各判断の違法性の有無の審理を裁判所に求めることができるものとすれば,その目的及び性質に照らし密行性が要求される捜査の遂行に重大な支障を来す結果となるのであつて,これは現行法制度の予定するところではないといわなければならないからである。」

イ.「税務署長のする所得税の更正は,所得金額を過大に認定していたとしても,そのことから直ちに国家賠償法一条一項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,税務署長が資料を収集し,これに基づき課税要件事実を認定,判断する上において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り,右の評価を受けるものと解するのが相当である。」

ウ.「不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分は,債権者の主張,登記簿の記載その他記録にあらわれた権利関係の外形に依拠して行われるものであり,その結果関係人間の実体的権利関係との不適合が生じることがありうるが,これについては執行手続の性質上,強制執行法に定める救済の手続により是正されることが予定されているものである。したがつて,執行裁判所みずからその処分を是正すべき場合等特別の事情がある場合は格別,そうでない場合には権利者が右の手続による救済を求めることを怠つたため損害が発生しても,その賠償を国に対して請求することはできないものと解するのが相当である。」


1.ア 2.イ 3.ウ



解答・解説

解答:2

Aは最判昭和53年10月20日が示したものです。

起訴前の逮捕・勾留、公訴の提起・追行、起訴後の勾留が国賠法上違法になる余地があるとしつつ、合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば違法とはならないとして、違法性についていわゆる職務行為基準説を採ったものといえます。

アの記述は最判H5.1.25が示したものです。

逮捕状の請求・発付について、その違法性を判断することは現行法制度の予定するところではないとして、国賠法上違法になる余地が無いという判断をしたものといえます。

そもそも国賠法上違法になる余地が無いとしているため、Aの考え方と近いとはいえません。

イの記述は最判H5.3.11が示したものです。

所得税の更正処分について、国賠法上違法になる余地があるとしつつ、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限って違法となるという判断をしたものといえます。したがって、職務行為基準説を採ったものといえます。

ウの記述は最判S57.2.23が示したものです。

不動産の強制競売事件における執行裁判所の処分について、その不適合が生じたとしても、自ら是正すべき場合などの特別の事情がある場合を除き、そうでなければ救済を求めることを怠った権利者に生じた損害は、国賠法上、国に請求することができないとする判断をしています。

執行裁判所に是正義務がある場合、すなわちそのような規定がある場合には違法となる余地を残したものではありますが、判断としては、権利者の懈怠があった場合には国賠請求をすることができないとしています。そのため、Aの考え方のように職務行為基準説を採ったものとはいえません。

以上のとおり、記述イがAの考え方と最も近い考え方を採る判例であるといえます。

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