行政上の即時強制に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。
ア.行政代執行法は,地方公共団体が条例に基づき即時強制を行うことを禁止する明文の規定を置いている。
イ.行政庁が行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていても,即時強制を行うことができる旨が法律に定められていなければ,行政庁が行政処分を経ずに当該義務の内容を実現する即時強制を行うことは認められない。
ウ.行政上の即時強制は,義務を命ずる暇のない緊急事態において行われるものであるから,いわゆる警察比例の原則の適用を受けない。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
解答:6
ア 誤り
即時強制とは、その対象者の義務の存在を前提とせず、行政上の目的を達成するため、直接身体・財産に対して有形力を行使することをいいます。
ここで、行政代執行法は行政上の義務の履行確保に関する規律を定めるものであるため(同法1条)、あらかじめ対象者の義務の存在を前提としない即時強制は同法の射程外です。
したがって、記述アは、行政代執行法が条例に基づく即時強制を禁止する明文の規定を置いているとしている点で誤っています。
イ 正しい
即時強制は人の身体・財産に対し不利益を与える措置であるため、これを認める法律の根拠が必要です。
そのため、行政処分により私人に義務を課すことができる旨が法律に定められていたとしても、即時強制を許容する規定が無い場合、即時強制を行うことはできません。
したがって、記述イは正しいといえます。
(なお、行政処分により私人に義務を課したあと、これを実現させるために有形力を行使することは、即時強制ではなく直接強制と分類されます。)
ウ 誤り
警察比例の原則とは、必要性の原則と目的・手段の相応性を要求する過剰規制禁止の原則をいいます。
行政上の即時強制は、義務を命ずる暇のない緊急事態において行われるものといえますが、警察比例の原則の適用を受けないわけではありません。鉄道営業法によって鉄道公安職員に即時強制を認めた事案においても、行われた件実力行使が必要最少限度の範囲内であったことが認定されています(最大判S48.4.25)。
したがって、記述ウは誤っています。