行政法-行政裁量
予備試験平成27年 第16問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

行政裁量に関する次のアからウまでの各記述について,法令又は最高裁判所の判例に照らし,正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。


ア.公立学校の校長が行った学生に対する退学処分の適否を裁判所が審査するに当たっては,裁判所が校長と同一の立場に立ってした判断と校長がした判断との間に食い違いがあれば,当該処分は違法とされる。


イ.国家公務員に対する懲戒処分について規定する国家公務員法第82条第1項は,懲戒権者に要件裁量を認める趣旨の規定であり,効果裁量を認める趣旨の規定ではない。

(参照条文)

国家公務員法第82条

1項 職員が,次の各号のいずれかに該当する場合においては,これに対し懲戒処分として,免職,停職,減給又は戒告の処分をすることができる。

 1号 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(中略)に違反した場合

 2号 職務上の義務に違反し,又は職務を怠つた場合

 3号 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

2項 (略)


ウ.都市施設に係る都市計画決定に当たっては,当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地から判断することが不可欠であり,このような判断は,これを決定する行政庁の広範な裁量に委ねられている。したがって,裁判所は,行政庁が判断の過程において考慮すべき事項を考慮せずに都市計画決定を行ったことを理由に挙げて,当該決定を違法とすることはできない。


1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○

4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×

7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×



解答・解説

解答:8

ア 誤り

判例は、高等専門学校の校長が学生に対してする原級留置処分又は退学処分には裁量権が認められるとしたうえで、「裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである」としています(最判H8.3.8)。

したがって、記述アは、裁判所が校長と同一の立場に立って判断するとしている点で誤っています。

イ 誤り

判例は、国家公務員に対する懲戒処分の規定について、公務員が公共の利益のために勤務することを本質的な内容とすること、国家公務員法が処分について平等取扱いの原則などを定めているだけで具体的な基準を設けていないことを挙げたうえで、「諸般の事情を考慮して、・・・公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである」としています(最判S52.12.20)。

したがって、記述イは、効果裁量を否定している点で誤っています。

ウ 誤り

判例は、都市計画法の規定の仕方などを挙げた上で、「このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられている」としています(最判H18.11.2)。

したがって、記述ウ前段は正しいといえます。

そして同判例は、「裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、・・・その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる」としています。

したがって、記述ウ後段は、判断過程において考慮すべき事項を考慮せずに都市計画決定を行ったことが違法の理由とならないとしている点で誤っています。

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