原告適格に関する次のアからウまでの各記述について,それぞれ①の法令に関する説明を前提にした場合に,②の記述が最高裁判所の判例の内容として正しいものに○,誤っているものに×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。
ア.①建築基準法第59条の2第1項は,建築物の容積率制限,高さ制限に関し,一定規模以上の広さの敷地を有し,かつ,敷地内に一定規模以上の空地を有する場合においては,安全,防火等の観点から支障がないと認められることなどの要件を満たすときに限り,これらの制限を緩和することを認めている。②この規定は,建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解されるから,同条第1項の総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,当該許可の取消しを求める原告適格を有する。
イ.①風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第4条第2項第2号は,風俗営業の許可の基準につき,良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例(以下「施行条例」という。)で定める地域内に営業所があるときは風俗営業の許可をしてはならないと定め,法の委任を受けて規定された風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(以下「施行令」という。)第6条第1号イの規定は,「住居が多数集合しており,住居以外の用途に供される土地が少ない地域」を風俗営業の制限地域とすべきことを基準として定めている。②これらの規定から,法の風俗営業の許可に関する規定が一般的公益の保護に加えて個々人の個別的利益をも保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難であり,施行令第6条第1号イの規定は,専ら公益保護の観点から基準を定めていると解するのが相当である。そうすると,上記の基準に従って規定された施行条例が定める地域に住居する者は,風俗営業の許可の取消しを求める原告適格を有するとはいえない。
ウ.①自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの)第4条第2項は,場外車券発売施設につき,申請に係る施設の位置,構造及び設備が経済産業省令で定める基準に適合する場合に限りその許可をすることができる旨定め,これを受けて規定された自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前のもの)第15条第1項第1号は,上記の基準として,学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設(以下,これらを併せて「医療施設等」という。)から相当の距離を有し,文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないこと(以下,この基準を「位置基準」という。)を定めている。②一般に,場外車券発売施設が設置,運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は,交通,風紀,教育など広い意味での生活環境の悪化であって,基本的には公益に属する利益というべきである。そうすると,医療施設等の開設者は,位置基準を根拠として当該施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するとはいえない。
1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ× 3.ア○ イ× ウ○
4.ア○ イ× ウ× 5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×
7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×
解答:2
ア 正しい
判例は、「建築物の倒壊、炎上等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命、身体の安全等及び財産としてのその建築物を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、総合設計許可に係る建築物の倒壊、炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は、総合設計許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する」としています(最判H14.1.22)。
したがって、記述アは正しいといえます。
イ 正しい
判例は、法の規定が「良好な風俗環境の保全という公益的な見地から風俗営業の制限地域の指定を行うことを予定しているものと解されるのであって、同号自体が当該営業制限地域の居住者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い。」、「施行令六条一号イの規定は、専ら公益保護の観点から基準を定めている」「同号所定の地域に居住する住民の個別的利益を保護する趣旨を含まない」として、施行条例が定める地域に住居する者の、風俗営業の許可の取消しを求める原告適格を否定しています(最判H10.12.17)。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
判例は、「一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない。」として、周辺住民の原告適格は否定しました(最判H21.10.15)。
しかし同判例は、法の定める「位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて、上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を、個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきであるから、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は、位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有する」としています。
したがって、記述ウは、医療施設等の開設者の原告適格を否定している点で誤っています。