代理に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.代理人が自己又は第三者の利益を図るために契約をした場合において,それが代理人の権限内の行為であるときは,本人は,代理人の意図を知らなかったことについて相手方に過失があったとしても,その行為について責任を免れることができない。
イ.第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その他人に代理権が与えられていないことをその第三者が知り,又は過失によって知らなかったことを主張立証すれば,その表示された代理権の範囲内においてされた行為について責任を免れる。
ウ.権限外の行為の表見代理は,代理人として行為をした者が当該行為をするための権限を有すると相手方が信じたことにつき本人に過失がなかったときは成立しない。
エ.代理権消滅後の表見代理は,相手方が代理人として行為をした者との間でその代理権の消滅前に取引をしたことがなかったときは成立しない。
オ.相手方から履行の請求を受けた無権代理人は,表見代理が成立することを理由として無権代理人の責任を免れることはできない。
1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ
解答:3
ア 誤り
判例は、「代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の右意図を知りまたは知ることをうべかりし場合に限り、民法九三条但書の規定を類推して、本人はその行為につき責に任じないと解するを相当とする」としています(最判S42.4.20)。
代理人の意図を知らなかったことについて相手方に過失があった場合、代理人の意図を知ることができたといえるため、民法93条ただし書きの規定が類推適用され、本人はその行為の責任を負わないことになります。
したがって、記述アは誤っています。
イ 正しい
民法109条は「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。」と定めています。
すなわち、他人が代理権を与えられていないことについて、第三者が知っていたこと又は過失によって知らなかったことの主張立証責任は、他人に代理権を与えた旨を表示した者にあり、これを主張立証することができれば、(表見)代理行為について責任を免れることができます。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
民法110条は「前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。」と定めています。
ここでは、第三者の認識が問題とされており、本人の過失の有無は問題となりません(最判S34.2.5)。
したがって、記述ウは誤っています。
エ 誤り
民法112条は「代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。」と定めており、代理権消滅前の取引の有無は要件となっていません。
したがって、記述エは誤っています。
オ 正しい
判例は無権代理人の責任(117条)について、「表見代理の成立が認められ、代理行為の法律効果が本人に及ぶことが裁判上確定された場合には、無権代理人の責任を認める余地がないことは明らかであるが、無権代理人の責任をもつて表見代理が成立しない場合における補充的な責任すなわち表見代理によつては保護を受けることのできない相手方を救済するための制度であると解すべき根拠はなく、右両者は、互いに独立した制度であると解するのが相当である。したがつて、無権代理人の責任の要件と表見代理の要件がともに存在する場合においても、表見代理の主張をすると否とは相手方の自由であると解すべきであるから、相手方は、表見代理の主張をしないで、直ちに無権代理人に対し同法一一七条の責任を問うことができるものと解するのが相当である・・・。そして、表見代理は本来相手方保護のための制度であるから、無権代理人が表見代理の成立要件を主張立証して自己の責任を免れることは、制度本来の趣旨に反するというべきであり、したがつて、右の場合、無権代理人は、表見代理が成立することを抗弁として主張することはできない」としています。
したがって、記述オは正しいといえます。