質権又は譲渡担保権に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.同一の動産について複数の質権を設定することはできないが,同一の動産について複数の譲渡担保権を設定することはできる。
イ.動産を目的とする質権は占有改定の方法によるその動産の引渡しによっては効力を生じないが,動産を目的とする譲渡担保権はその設定契約によって設定され,占有改定の方法によるその動産の引渡しがあれば,譲渡担保権者は第三者に譲渡担保権を対抗することができる。
ウ.債権質の目的である債権の弁済期が到来した場合には,被担保債権の弁済期が到来していないときであっても,質権者は,債権質の目的である債権を直接に取り立てることができる。
エ.債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは,質権の設定は,その証書を交付することによって,その効力を生ずる。
オ.動産を目的とする譲渡担保権が設定されている場合,その設定者は,正当な権原なくその動産を占有する者に対し,その動産の返還を請求することができない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ オ
解答:3
ア 誤り
民法355条は「同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。」と定められているため、同一の動産について複数の質権を設定できることが前提とされています。
また、集合動産譲渡担保の事案ではありますが、判例は「重複して譲渡担保を設定すること自体は許されるとしても」としたうえで、譲渡担保の優先権について検討しています(最判H18.10.20)。そのため、同一の動産について複数の譲渡担保権を設定できるといえます。
したがって、記述アは同一の動産について複数の質権を設定することはできないとしている点で誤っています。
イ 正しい
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生じますが(344条)、ここでいう引渡しには占有改定(183条)は含まれないと解されています。
譲渡担保は、設定契約によって設定されます。そして、譲渡担保は一般に、債務者が物の占有を移転しないでその物を担保にするものであることから、引渡しは占有改定の方法によるのが通常であるといえます。そして判例は、「売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者は・・・その引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつた」としています(最判S30.6.2)。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
民法366条3項は「前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。」と定めています。
そのため、被担保債権の弁済期が到来していない段階では、質権者は債権質の目的である債権を直接に取り立てることはできません。
エ 正しい
民法363条は「債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。」と定めています。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
判例は、「譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められる」としたうえで、「設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから・・・正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができる」としています(最判S57.9.28)。
したがって設定者が正当な権原なく占有する者に対し、返還を請求できないとしている点で、記述オは誤っています。