次のaからcまでの【見解】は,刑事訴訟法第326条の同意(以下「同意」という。)の性質に関する考え方を述べたものである。これらの【見解】について述べた後記アからオまでの【記述】のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
【見解】
a.同意は,公判において供述者に対し反対尋問を行う権利を放棄することである。
b.同意は,公判において証拠能力を付与する訴訟行為である。
c.同意は,原供述時において供述者に対し反対尋問を行うことができなかったこと,あるいは原供述時において裁判所が供述者の供述態度を観察することができなかったことについて,責問権を放棄することである。
【記述】
ア.aの見解に対しては,検察官が請求した被告人以外の者の供述調書について,被告人側がこれを同意した上で,その証明力を争うために供述者の証人尋問を請求することができないことになるという批判がある。
イ.aの見解に対しては,捜索差押手続が違法であっても,同意をすれば,同手続の捜索差押調書は証拠能力を有することになるという批判がある。
ウ.bの見解に対しては,伝聞法則を反対尋問権の保障の観点からしか理解しておらず,裁判所による供述態度の観察という直接主義の観点が欠落しているという批判がある。
エ.bの見解に対しては,同意の性質が伝聞証拠が排除される趣旨と関連しなくなり,刑事訴訟法第326条が同法第320条第1項で排除される伝聞証拠について証拠能力を認める規定となっていることとそぐわないという批判がある。
オ.cの見解に対しては,刑事訴訟法第326条第1項が被告人の供述調書についても規定していることを説明できないという批判がある。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ
解答:2
ア 正しい
aの見解は、同意を反対尋問権の放棄と解する見解です(最決S26.5.25の見解)。
この見解に対しては、同意をしたことで反対尋問ができなくなることから、同意をしたうえで証人尋問をして、その証明力を争うことができないことなるとの批判があります(もっとも、上記最決S26が反対尋問権の放棄と解してはいますが、実務上は、同意したうえで証人尋問請求をすることが全くなされていないわけではありません)。
したがって、記述アは正しいといえます。
イ 誤り
aの見解からは、違法な捜索差押手続によって作成された調書について同意したとしても、反対尋問権を放棄するにとどまり、違法収集証拠として証拠能力が否定される可能性は残されています。
したがって、記述イは誤っています。
なお、bの見解は、同意によって証拠能力を付与するものであるため、違法な捜索差押手続によって作成された調書に同意をすることで、証拠能力を有することになってしまうことになります。したがって、記述イはbの見解に対する批判となります。
ウ 誤り
伝聞法則を反対尋問権の保障の観点からしか理解していないという批判は、同意の本質を反対尋問権の放棄と解するaの見解に対するものです。bの見解は、反対尋問権の保障とは直接関係がありません。
したがって、記述ウは誤っています。
エ 正しい
伝聞証拠が排除されるのは、その過程に誤りが混入するおそれがあり、(反対尋問等により)真実性の担保ができないためであると解されます。これに対し、同意によって証拠能力を付与するというbの見解は、上記伝聞法則とは関連が無いことになります。そのため、同意(326条1項)が伝聞例外の一つとされている規定に適合的でないという批判が成り立ちます。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
326条1項が被告人の供述調書についても規定しており、被告人による被告人自身への反対尋問はそもそも観念できないという批判は、aの見解に対する批判です。cの見解は原供述時において裁判所が供述者の供述態度を観察することができなかったことについての責問権の放棄も含んでいるため、326条1項が被告人の供述調書についても規定していたとしても、批判は当たりません。
したがって、記述オは誤っています。