取締役及び取締役会に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.取締役会を構成する取締役は,社外取締役であっても,取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず,代表取締役による会社の業務執行一般につき,これを監視する職務を有する。
イ.取締役会の開催に当たり,取締役の一部の者に対する招集通知を欠いた場合において,その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは,その決議は有効である。
ウ.取締役会の定足数は,開会時に充足されただけでは足りず,討議及び議決の全過程を通じて維持されなければならない。
エ.代表取締役の解職に関する取締役会の決議については,その決議がその代表取締役に告知されて初めて解職の効果が生ずる。
オ.代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合には,特段の事情がない限り,その会社以外の者も,取締役会の決議を経ていないことを理由とするその取引の無効を主張することができる。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ エ 5.エ オ
ア 正しい
判例は、「株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行なわれるようにする職務を有する」としています(最判昭和48年5月22日)。
したがって、記述アは正しいといえます。
イ 正しい
判例は、単なる名目的取締役に対しても招集通知を発しなければならないとしつつ、「取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、右瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になる」としています(最判昭和44年12月2日)。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 正しい
判例は、「定足数は、討議、議決の全過程を通じて維持されるべきであつて、開会の始めにみたされていればよいというものではない。けだし、法律は、一定数以上の取締役が会議に出席することを要請し、その協議と意見の交換により取締役の英知が結集されて一定の結論が生み出されることを期待しているものと解せられるからである。」としています(最判昭和41年8月26日)。
したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 誤り
判例は、「株式会社における取締役会の代表取締役解任の決議は、代表取締役の会社代表機関たる地位を剥奪するものであつて、右決議によつて右機関たる地位が失われることの効果として、被上告会社を代表する権限も当然消滅するものと解するのを相当とし、所論告知をまつてはじめて解任の効果が生ずると解すべきではない。」としています(最判昭和41年12月20日)。
したがって、記述エは誤っています。
オ 誤り
判例は、362条4項が重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めた理由は「代表取締役への権限の集中を抑制し、取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする趣旨」としたうえで、「株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は、原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、これを主張することはできない」としています(最判平成21年4月17日)。
したがって、記述オは、無効主張の可否についての原則と例外を逆にしている点で、誤っています。