訴えの利益に関する次の1から5までの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものはどれか。
1.新株予約権の募集事項の決定につき株主総会決議を要する場合において,当該決議の取消訴訟が係属中に当該新株予約権が発行されたとしても,当該訴えの利益は失われない。
2.共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは,確認の利益が欠ける。
3.確定した給付判決が存在しても,時効中断のため他に方法がないときには,同一訴訟物につき再度給付の訴えを提起する利益が認められる。
4.物の引渡しが執行不能となる場合に備えての代償請求は,将来の給付の訴えとしてその利益が認められる。
5.ある財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは,確認の利益が欠ける。
解答:1
1 誤り
株主総会決議の取り消し訴訟は、裁判の確定により当該決議が取り消されることになるため、形成の訴えに当たります。形成の訴えは、所定の要件を備えて提起する限り、訴えの利益が認められます。
しかし、例外的に、形成判決の目的が実現不可能になったときなど、訴えの利益が失われる場合があります。判例は、株主以外の第三者に新株引受権を付与する旨の株主総会決議がされ、その取り消しを求める訴訟の係属中に新株が発行された場合、訴えの利益は失われるとしています(最判S37.1.19)。
したがって、記述1のような場合には、訴えの利益は失われるといえるため、記述1は誤っています。
2 正しい
確認の利益は、原則として現在の権利又は法律関係の確認であるときに認められます。
具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであるので、実体法上の権利関係であるということはできないと解されています(最判H12.2.24)。そのため、遺産分割審判事件のような具体的な事件を離れて、具体的相続分のみを別個独立に判断したとしても、紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできません(同判例)。
したがって、具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えには、確認の利益がありません。よって、記述2は正しいといえます。
3 正しい
確定した給付判決について、もう一度訴訟により請求することは、同じ請求を繰り返すものであり、また、当該判決により執行をすればよいため、原則として訴えの利益は認められません。
例外的に、時効中断のために他に方法が無い場合など、特段の事情があるときに限って認められます。判例は、確定した給付判決があるが、消滅時効の完成が近づき、訴え以外にその中断をする適当な方法がない場合、訴えの利益が認められるとしています(大判S6.11.24、東京高判H5.11.15)。
したがって、記述3は正しいといえます。
4 正しい
将来の請求をする場合、裁判所は予測的な判断をせざるを得ず、また、被告もそのような請求に対して防御しなければなりません。このことから、給付の訴えは履行期が既に到来した現在給付の訴えを原則とし、将来給付は「あらかじめその請求をする必要がある場合に限り」(135条)認められます。
物の引渡しが執行不能になる場合に備えて請求を代償請求と呼びますが、代償請求として損害賠償を請求することは、判例上認められています(大判S15.313)。このとき裁判所は、本来の給付を命じると同時に、執行不能を条件として事実審口頭弁論終結時の価額の賠償を命じる判決をすることができます(同判例)。
したがって、記述4は正しいといえます。
5 正しい
確認の利益は、原則として現在の権利又は法律関係の確認であるときに認められます。
民法903条1項の特別受益財産の持ち戻しの制度は、遺産の価額に特別受益財産の価額を加えたものを相続財産とみなし、具体的な相続分を算定するためのものです。そのため、この規定により特別受益のある共同相続人に持ち戻すべき義務が生ずるわけではありません。そうすると、ある財産が特別受益財産に当たることの確認を求める訴えは、現在の権利又は法律関係の確認を求めるものということはできません(最判H7.3.7)。
もっとも、過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認を求める訴えは確認の利益が認められます(最判S47.11.9)。
しかし、「ある財産が特別受益財産に当たるかどうかの確定は、具体的な相続分又は遺留分を算定する過程において必要とされる事項にすぎず、しかも、ある財産が特別受益財産に当たることが確定しても、その価額、被相続人が相続開始の時において有した財産の全範囲及びその価額等が定まらなければ、具体的な相続分又は遺留分が定まることはないから、右の点を確認することが、相続分又は遺留分をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することにはならない」ため、やはり訴えの利益は認められません(上記H7判例)。
したがって、記述5は正しいといえます。