処分権主義に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.訴訟物が特定されない訴状は,裁判長の命令にもかかわらず原告がその不備を補正しないときは,裁判長の命令により却下される。
イ.原告が給付判決を求めている場合において,訴訟物とされている請求権の履行期が到来していないことが明らかになったときは,裁判所は,当該請求権の存在を確認する判決をすることができる。
ウ.家屋明渡請求訴訟において,留置権の抗弁が認められるときは,裁判所は,当該留置権により担保される債権の弁済を受けることと引換えに家屋の引渡しを命ずる。
エ.債務の全額である100万円についての不存在確認を求める訴訟において,裁判所は,当該債務の一部である10万円の債務が存在すると認めるときは,100万円のうち10万円を超える債務の不存在を確認し,その余の請求を棄却する。
オ.共有物分割の訴えにおいて,原告が分割の方法として共有物の現物を分割することを求めているときは,裁判所は,当該共有物を競売してその売得金で分割する内容の判決をすることができない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ オ
解答:4
ア 正しい
訴状には請求の趣旨及び原因を記載しなければならず(133条2項2号)、訴訟物が特定されない訴状は同条項違反として補正命令の対象となります(137条1項)。補正命令にもかかわらず原告がその不備を補正しないとき、裁判長は、命令で訴状を却下します(137条2項)。
したがって、記述アは正しいといえます。
イ 誤り
判例は、給付の訴えの申立てには弁済期未到来のため現に行使できない請求権の確認判決を求める申立てを含まないとしています(大判大正8年2月6日)。
そのため、給付請求に対して、当該請求権の存在を確認する判決をすることは、原告が申し立てていない事項について判断するものであり、処分権主義に反することとなります。
したがって、裁判所はそのような判決をすることはできないため、記述イは誤っています。
ウ 正しい
判例は、建物収去土地明渡請求に対し、建物買取請求権の抗弁および留置権の抗弁が認められる場合、裁判所は、建物の引渡請求を棄却するのではなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡を命ずべきであるとしています(最判昭和33年6月6日)。
このように、給付請求に対し引換給付判決をすることは、単なる棄却判決よりも有利であることから原告の合理的意思に反せず、被告に対する不意打ちにもならないことから、処分権主義に反しないと解されています。
したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 正しい
判例は、貸金債権が一定額を超えては存在しない旨の確認訴訟においては、残存額の不存在の限度を明確にしなければならないとしています(最判昭和40年9月17日)。
すなわち、記述エのように、債務の全額である100万円についての不存在確認請求訴訟における訴訟物は、その100万円の債務不存在の確認であり、仮に債務が10万円残存していると認めるときは、100万円のうち10万円を超えては債務は存在しないことを確認し、その余を棄却することになります。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
判例は、「共有物分割の訴えにおいては、当事者は、単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは必要でないとともに、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによつて著しく価格を損するおそれがあるときには、裁判所は、当事者が申し立てた分割の方法にかかわらず、共有物を競売に付しその売得金を共有者の持分の割合に応じて分割することを命ずることができる」として、当事者が申し立てていなくても共有物を競売して分割する内容の判決をすることができるとしています(最判昭和57年3月9日)。
したがって、記述オは誤っています。