法律行為に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.代理権を有しない者が本人のためにすることを示して契約を締結した場合,本人がその契約の相手方に対して追認を拒絶する旨を表示することは,法律行為に当たる。
イ.債権者が債務者に対してその債務を免除する旨を表示することは,法律行為に当たる。
ウ.債権者が債務者に対してあらかじめ弁済の受領を拒絶する旨を表示することは,法律行為に当たる。
エ.2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において,双方の債務が弁済期にあるときに,債務者の一方が相手方に対してその対当額について相殺をする旨を表示することは,法律行為に当たる。
オ.債務の消滅時効が完成する前に,債務者が債権者に対してその債務の承認をする旨を表示することは,法律行為に当たる。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ オ
解答:5
法律行為とは、一定の法律効果の発生を欲する者に対して、その内容通りの効果が発生する行為をいいます。例としては、単独行為(意思内容と同じ法律効果を生じさせる行為)、契約(相対する2つ以上の意思表示の合致により成立する行為)、合同行為が挙げられます。
これに対し、準法律行為とは、直接に法律効果の発生を意欲する内容以外の精神作用の表示をいいます。例としては、観念の通知(事実の存在を通知すること)、意思の通知(意思内容と異なる法律効果を生じさせる意思を通知すること)が挙げられます。
ア 正しい
代理権を有しない者が本人のためにすることを示して契約を締結することは無権代理であり、原則としてその契約の効力は生じませんが、追認をすることで効力を生じさせることができます(113条1項、116条)。そして、拒絶をすることで、効力を生じさせないことを確定的とすることができます(113条2項)。すなわち、追認を拒絶する旨を表示することは、その内容のとおりの法律効果が発生する行為であるといえるため、法律行為に当たります。
したがって、記述アは正しいといえます。
イ 正しい
債務の免除は、債権の消滅という効果を発生させる単独行為(519条)であるので、法律行為に当たります。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
弁済の受領を拒絶する旨を表示することで、債務者は弁済の供託をすることができるようになります(493条、494条)。しかし、債権者が表示した内容(=弁済の受領の拒絶)通りの効果が発生するというものではなく、供託のための要件となるものであるため、意思の通知に当たり、準法律行為に当たります。
したがって、記述イは誤っています。
エ 正しい
相殺(505条1項本文)は、債権債務を対等額で消滅させるという効果を発生させる単独行為であるので、法律行為に当たります。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
債務の承認(147条3号、156条)は、債務の存在を認める旨の意思を表示するものです。これによって時効の中断という効果を生じますが、債務者が時効を中断させる旨を表示するものではありません。債務者が債務の存在を認識しているという事実を通知するものであるため、観念の通知にあたり、準法律行為に当たります。
したがって、記述オは誤っています。