抵当権に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.保証人の求償権は,主たる債務者が弁済しないときに保証人が弁済することによって生じる将来の債権であるから,保証人の求償権を被担保債権として抵当権を設定することはできない。
イ.土地を賃借し,その土地上に建物を所有している者が,その建物に抵当権を設定した場合であっても,土地の賃貸人が賃借人との合意により賃貸借契約を解除したときは,土地の賃貸人は,その解除による賃借権の消滅を抵当権者に対抗することができる。
ウ.抵当不動産を買い受けた第三者が,抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは,抵当権は,その第三者のために消滅する。
エ.抵当権を実行することができる時から20年が経過すれば,抵当権設定者は,抵当権者に対し,時効による抵当権の消滅を主張することができる。
オ.A所有の建物について,Bが第一順位の抵当権を,Cが第二順位の抵当権をそれぞれ有している場合,BがAからその建物を買い受けた場合であっても,第一順位の抵当権は消滅しない。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ エ 4.ウ エ 5.ウ オ
解答:5
ア 誤り
抵当権の被担保債権は、特定されている必要はありますが、将来の債権でも構いません。判例は、保証人が将来保証債務を履行したときに主たる債務者に対して取得する求償権を被担保債権とすることを認めています(最判昭和33年5月9日参照)。
したがって、記述アは誤っています。
イ 誤り
398条は、「地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。」と定め、地上権者又は永小作権者がこれらの権利を放棄しても、これらの権利についての抵当権者には対抗できないとしています。これを認めてしまうと、抵当権者に不測の損害を被らせることとなるためです。
判例はこの規定を類推適用し、地上建物に抵当権を設定した場合、地上権や賃借権を放棄しても抵当権者には対抗できず(大判大正11年11月24日)、合意解除により土地の賃貸借契約を解除したとしても、抵当権者には対抗できない(その結果、競売で建物を取得した者はそのまま土地を使用する権利がある)としています(大判大正14年7月18日)。
したがって、記述イは誤っています。
ウ 正しい
378条は「抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。」と定めています(代価弁済)。したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 誤り
396条は「抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。」と定めています。したがって、記述エは被担保債権に触れることなく20年の経過のみで抵当権の時効消滅ができるとしている点で、誤っています。
オ 正しい
仮に、第二順位の抵当権がなく、第一順位の抵当権者が抵当不動産を取得した場合、混同によって抵当権は消滅します(179条1項本文)。
しかし記述オのように、Cの第二順位の抵当権がある場合、抵当不動産が第三者の権利の目的となっている、といえるため混同は生じず(179条1項ただし書き)、Bの第一順位の抵当権は消滅しません。
したがって、記述オは正しいといえます。