建物の賃貸借に関する次のアからオまでの各記述のうち,誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。
ア.賃借人は,賃貸借の目的建物が修繕を要する状態になった場合,賃貸人が既にこれを知っているときを除き,目的建物が修繕を要する旨を遅滞なく賃貸人に通知しなければならない。
イ.賃借人は,賃貸人が賃借人の意思に反して賃貸借の目的建物を保存するために修繕をしようとする場合,これを拒絶することができる。
ウ.賃借人は,賃貸借の目的建物の改良のために工事費用を支出した場合において,その価格の増加が現存するときは,その工事について賃貸人から了解を得ていないときであっても,賃貸人の選択に従い,その支出した費用の額又は目的建物の増価額について,賃貸借の終了時にその償還を賃貸人に請求することができる。
エ.賃借人は,賃貸借の目的建物の保存のために必要な費用を支出した場合,賃貸借が終了する前であっても,直ちにその費用の償還を賃貸人に請求することができる。
オ.期間の定めがある場合において,賃貸人が期間の満了の1年前から6月前までの間に賃借人に対して更新をしない旨の通知をしたときには,その契約が更新されることはない。
1.ア エ 2.ア オ 3.イ ウ 4.イ オ 5.ウ エ
解答:4
ア 正しい
615条は、「賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。」と定めています。したがって、記述アは正しいといえます。
イ 誤り
606条2項は、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。」と定めているため、保存行為が仮に賃借人の意思に反したものであっても、賃借人はこれを拒絶することはできません。
したがって、記述イは誤っています。
なお、保存行為が賃借人の意思に反し、これにより賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるとき、賃借人は契約を解除することができます(607条)。
ウ 正しい
目的建物の改良のための工事費用は、有益費に当たります。そのため、賃貸借の終了時に、その価格の増加が現存するときは、賃貸人の選択に従い、支出額又は増加額を請求することができます(608条2項)。
このとき、賃貸人の承諾を要するといった規定は無いため、賃貸人から了解を得ていなくとも有益費の償還請求は認められると解されます。
したがって、記述ウは正しいといえます。
エ 正しい
賃貸借の目的建物の保存のための費用は、必要費に当たります。賃借人が必要費を支出した場合は、賃貸借が終了する前であっても直ちに費用の償還を請求することができます(608条1項)。
したがって、記述エは正しいといえます。
オ 誤り
借地借家法26条1項本文は、「建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。」と定めています。
そうすると、期間満了の1年前から6月前までの間に更新しない旨の通知をすれば、契約が更新されないとも思われます。
しかし、更新をしない旨の通知により賃貸借契約を終了させるには、「正当の事由」が必要です(同28条)。そのため、法定の期間中に更新しない旨の通知をしたとしても、それに正当事由が無ければ、契約は更新されることになります。
したがって、更新をしない旨の通知をした場合に更新されることは無いとしている点で記述オは誤っています。