第一審の被告人質問に関する次のアからオまでの各記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。
ア.被告人質問については,証拠調べの最終の段階で行うこととされており,検察官の立証が終了する前に被告人質問を実施することは許されない。
イ.被告人質問を実施するためには証拠調べの請求や決定を必要としない。
ウ.被告人質問を開始するに当たっては,あらかじめ被告人に供述する意思の有無を確かめなければ違法な手続となる。
エ.被告人質問においては,まず弁護人が質問し,次いで検察官が質問をするという順番によらなければならない。
オ.当事者の質問終了後,裁判長が被告人に対し質問をしなかったとしても,訴訟手続の法令違反の問題は生じない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ
解答:4
ア 誤り
被告人質問の根拠条文とされる311条2項は、「被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。」と定められており、「何時でも」行うことができます。(ただし、起訴状朗読前には行うことはできないと解されます。)冒頭手続終了後、証拠調べ前の質問を違法ではないとした判例もあります(最大判S25.12.20)。
そのため、検察官立証が終了する前であっても、被告人質問を実施することができます。
したがって、記述アは誤っています。
イ 正しい
被告人質問は、厳密な意味での証拠調べではありません。そのため、証拠調べの請求やその決定も必要ではありません。
したがって、記述イは正しいといえます。
ウ 誤り
被告人質問に先立ち、黙秘権等の告知が行われています(291条4項)。そのため、被告人質問を開始するに当たり、供述の意志の有無を確認する必要はありません。
したがって、記述ウは誤っています。
エ 誤り
被告人質問の順番は、条文上は裁判長の質問が先に規定されていますが(311条2項)、裁判長の裁量によると解されています。そのため、弁護人より先に検察官が質問をしたとしても、違法とはいえません。(もっとも、実務的には、弁護人がまず行い、次に検察官が、そして裁判所が補充質問を行うことが多いといえます。)
したがって、記述エは誤っています。
オ 正しい
被告人質問の程度は裁判長の裁量に委ねられています。そのため、「被告人に対し二三の質問をしたのみで詳細の質問をしなかつたとしても、被告人は陳述の機会を充分与えられているので、もし必要があると考えたなら自ら進んで陳述すればよいわけであつて、・・・詳細の質問を発しなかつたとしても第一審判決は何等刑訴手続に違反しない」とされています(最判S25.7.25)。
したがって、裁判長が被告人質問をしなかったとしても、訴訟手続の法令違反の問題は生じないといえ、記述オは正しいといえます。