法の下の平等に関する次のアからウまでの各記述について、最高裁判所の判例の趣旨に照らして、それぞれ正しいものには〇、誤っているものには✕を付した場合の組合せを、後記1から8までの中から選びなさい。
ア.日本国籍は重要な法的地位であり、父母の婚姻による嫡出子たる身分の取得は子が自らの意思や努力によっては変えられない事柄であることから、こうした事柄により国籍取得に関して区別することに合理的な理由があるか否かについては、慎重な検討が必要である。
イ.非嫡出子という身分は子が自らの意思や努力によって変えることはできないから、嫡出性の有無による法定相続分の区別の合理性については、立法目的自体の合理性及び当該目的と手段との実質的関連性についてより強い合理性の存否を検討すべきである。
ウ.尊属殺という特別の罪を設け、刑罰を加重すること自体は直ちに違憲とはならないが、加重の程度が極端であって、立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化し得べき根拠を見出し得ないときは、その差別は著しく不合理なものとして違憲となる。
1.ア〇 イ〇 ウ〇
2.ア〇 イ〇 ウ ✕
3.ア〇 イ ✕ ウ〇
4.ア〇 イ ✕ ウ ✕
5.ア ✕ イ〇 ウ〇
6.ア ✕ イ〇 ウ ✕
7.ア ✕ イ ✕ ウ〇
8.ア ✕ イ ✕ ウ ✕
解答:3
ア 正しい
日本国民である父と、法律上の婚姻関係にないフィリピン共和国籍を有する母との間に、日本で出生した子らが、出生後父から認知を受けたことを理由として国籍取得届を提出したところ、国籍取得の条件を備えていないため日本国籍を取得していないものとされたことから、日本国籍を有することの確認を求めた事件における、最大判平成20年6月4日の理解を問うものです。
当時の国籍法3条1項は、「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。」とされていました。この規定からすると、法律上の婚姻をしていない父(日本国籍)と母(外国籍)との子であっても、その父母が後に法律上の婚姻をした場合に限り、その子が日本国籍を取得できることになります。この点が憲法14条1項に違反するとして争われました。
最高裁は、設問のとおり述べたうえ、日本国籍を取得するために父母の婚姻が必要とする部分については、憲法14条1項に違反して無効であり、残りの要件を満たしていれば、日本国籍を取得できると判断しました。
したがって、設問は正しいといえます。
イ 誤り
死亡した被相続人の遺産につき、その嫡出である子らが、嫡出でない子らに対し、遺産の分割の審判を申し立てた事件における、最大決平成25年9月4日の理解を問うものです。
法定相続分を定めた民法900条4号は、当時、『子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。』 と定められていました。そこで、下線の部分が憲法14条1項に違反すると主張されました。
最高裁は、当該規定の憲法14条1項の合憲性の基準について、「嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、・・・立法府に与えられた上記の ような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに 合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解する」と述べており、設問のように目的の合理性及び目的と手段との実質的関連性の存否を検討すべき、とはしていません。
したがって、設問は誤っています。
ウ 正しい
尊属殺規定(刑法200条)について、憲法14条1項違反が争われた事件における最大判昭和48年4月4日の理解を問うものです(この日には刑法200条に関する3件の最高裁判決がなされていますが、その内2件については、1件の判決を参照する形になっています。)。
当時、刑法200条は、尊属を殺した者については、死刑又は無期懲役のみを法定刑として定めており、有期懲役の規定がありませんでした。このことが、通常殺人(刑法199条、3年以上の有期懲役の法定刑がありました)と比べて重すぎ、平等原則違反であると主張されたものです。
最高裁は、14条1項に意味する差別的取扱いが合理的な根拠に基づくものであるかどうかで、違憲になるかどうかを決するとしたうえで、立法目的としては、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるから、尊属殺の規定はあながち不合理であるとはいえないとしました。したがって、設問前段は正しいといえます。
しかし、「加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものである」と述べ、情状酌量によっても執行猶予をつけることができないことや、過去の処断例なども検討したうえ、死刑または無期懲役刑のみに限っている点は憲法14条1項に違反し無効であるとしました。
したがって、設問後段も正しいといえます。