司法権に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには〇,誤っているものには✕を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。
ア.下級裁判所は,最高裁判所が制定した裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する規則に拘束されるから,最高裁判所が,下級裁判所の裁判官に対して,具体的事件について,どのような判断を行うべきか指示することも許される。
イ.裁判官の職権の独立は,裁判に対して不当な影響を与えるおそれのある一切の外部的行為の排除を要求するが,一般国民やマスメディアによる裁判内容の批判は,表現の自由の行使の一場面であるから許される。
ウ.国政調査権は議院にとって重要な権能であるが,司法権の独立の観点からして,具体的事件について,その判決の事実認定や量刑が適切かどうかを調査することは,国政調査権の範囲を逸脱するものであり,許されない。
1.ア〇 イ〇 ウ〇
2.ア〇 イ〇 ウ ✕
3.ア〇 イ ✕ ウ〇
4.ア〇 イ ✕ ウ ✕
5.ア ✕ イ〇 ウ〇
6.ア ✕ イ〇 ウ ✕
7.ア ✕ イ ✕ ウ〇
8.ア ✕ イ ✕ ウ ✕
解答:5
ア 誤り
最高裁判所には、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項についての規則制定権があり(77条1項)、下級裁判所はこれに拘束されます。
しかしこれは、具体的事件についての判断に及ぶものではありません。「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(76条3項)のであって、最高裁判所の定める規則には拘束されず、具体的事件についての判断について指示することも許されないと解されます。
したがって、設問は誤っています。
イ 正しい
上記のとおり、裁判官は憲法および法律にのみ拘束され、その良心に従って独立して職務を行います。そのため、裁判に対して不当な影響を与えるおそれのある一切の外部的行為の排除を要求するといえます。したがって、設問前段は正しいといえます。
また、一般国民やマスメディアによる裁判内容の批判は、表現の自由の行使の一場面であるといえます。そのため、裁判批判といえども、原則として表現の自由として憲法上保障され、例外的に、裁判に対して不当な影響を与えるような場合にのみ制約されると考えられます。裁判の公正確保に対して「明白かつ現在の危険」を及ぼすような場合に限られる、とする見解が有力です。
したがって、設問後段も正しいといえます。
ウ 正しい
国政調査権と司法権との関係が問題となりますが、司法権の独立の観点からして、司法に関する立法や予算について審議するための調査は許されますが、具体的事件について適否について調査することは、国政調査権の範囲を逸脱するものだと考えられています。したがって、設問は正しいといえます。