業務妨害罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。
1.業務妨害罪における「業務」とは,職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいい,営利を目的とするものでなくても「業務」に含まれる。
2.業務妨害罪における「業務」は,業務自体が適法なものであることを要するから,行政取締法規に違反した営業行為は「業務」には当たらない。
3.強制力を行使しない非権力的公務は,公務執行妨害罪における「公務」に当たるとともに業務妨害罪における「業務」にも当たる。
4.威力業務妨害罪における威力を「用いて」といえるためには,威力が直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要する。
5.業務妨害罪における「妨害」とは,現に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず,業務を妨害するに足りる行為があることをもって足りる。
解答:2,4
1 正しい
業務妨害罪における「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務、又は事業をいいます(大判T10.10.24)。営利目的がどうかは問いません。したがって、記述1は正しいといえます。
2 誤り
業務妨害罪における「業務」は、必ずしも適法なものであることを要しません。判例は、路上生活者を退去させる業務が、必ずしも法的根拠に基づくとはいえない事案において、「業務妨害罪としての要保護性を失わせるような法的瑕疵があったとは認められない」としています(最決平成14年9月30日)。このことから、民事法、行政法上の手続違反があったとしても(=適法とはいえないとも)、直ちに業務妨害罪の保護の対象から外れるわけではないといえます。
したがって、業務自体が適法なものであることを要するとした記述2は誤っています。
3 正しい
業務妨害罪の業務の定義からすると、公務執行妨害罪により保護される公務は、全て業務妨害罪の業務に含まれるようにみえます。しかし、公務には強制力を有する権力的公務と、それを有しない非権力的公務とが観念できます。判例は、強制力を行使する権力的公務ではないことを理由として、非権力的公務を業務妨害罪により保護する「業務」に含まれると解しています(最決平成12年2月17日)。そうすると、権力的公務については業務妨害罪にいう業務に含まれず、他方で非権力的公務については、業務妨害罪、公務執行妨害罪の両方により保護されることになります。
したがって、記述3は正しいといえます。
4 誤り
判例は、威力は直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しないとしています(最判昭和32年2月21日)。したがって、記述4は誤っています。
5 正しい
業務妨害罪は、現実に業務遂行が妨害されることは必要でなく、妨害の結果を発生させるおそれのある行為があれば足ります(抽象的危険犯・最判昭和28年1月30日)。したがって、記述5は正しいといえます。