刑法-故意
予備試験平成25年 第7問

司法試験ピックアップ過去問解説

問題

次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,誤っているものを2個選びなさい。

1.暴力団組長甲は,配下組員乙に対し,「もし,Aがこちらの要求を聞き入れなかったら,Aを殺してこい。Aがこちらの要求を聞き入れるのであれば,Aを殺す必要はない。」旨指示し,乙にけん銃を手渡した上,乙を対立する暴力団組員Aのところに行かせた。乙は,Aが要求を聞き入れなかったので,Aをけん銃で射殺した。甲には殺人罪の故意が認められる。

2.甲は,駐車場で他人の所有する自動車に放火し,公共の危険を生じさせた。その際,甲は,公共の危険が発生するとは認識していなかった。甲には建造物等以外放火罪の故意は認められない。

3.甲は,乙から,乙が窃取してきた貴金属類を,乙が盗んできたものかもしれないと思いながら,あえて買い取った。甲には盗品等有償譲受け罪の故意が認められる。

4.覚せい剤が含まれている錠剤を所持していた甲は,同錠剤について,身体に有害で違法な薬物類であるとの認識はあったが,覚せい剤や麻薬類ではないと認識していた。甲には覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪の故意が認められる。

5.甲は,Aを殺害しようと考え,Aに向けてけん銃を発射し,弾丸をAに命中させ,Aを死亡させたが,同弾丸は,Aの身体を貫通し,甲が認識していなかったBにも命中し,Bも死亡した。甲にはA及びBに対する殺人罪の故意が認められる。



解答・解説

解答:2,4

1 正しい
故意は、実行行為の時点において存在することが必要です(行為と責任の同時存在の原則)。しかし、他人の行為を介した行為の場合で、実行を一定の事態の発生にかからせていた場合、故意が認められるかという問題があります(条件付き故意)。
最高裁は、条件が付いていたとしても、実行行為の意思が確定的であったときは故意ありとしています(最判昭和59年3月6日)。
記述1についても、Aが要求を「聞き入れなかった場合」という条件が付いてはいるものの、その場合は殺害するという意思は確定的であったといえます。そうすると、甲には殺人罪の故意が認められることになります。したがって、記述1は正しいといえます。

2 誤り
最高裁は、建造物等以外放火罪における故意について、「公共の危険」が発生する旨の認識を不要としています(最判昭和60年3月28日)。そのため、他人の所有する自動車に放火する認識があれば、公共の危険が発生する認識が無くとも、建造物等以外放火罪の故意が認められることになります。したがって、記述2は誤っています。

3 正しい
最高裁は、賍物故買罪(盗品等有償譲受け罪)の故意について、盗品であることについて未必の故意があれば足りるとしています(最判昭和23年3月16日)。したがって、記述3の場合も故意が認められるため、正しいといえます。 

4 誤り
覚せい剤などの薬物犯罪についての法規制の内容は非常に専門的であり、行為者も通常薬物の名称や性質を正確に認識していないことが多いということなどから、その認識については、身体に有害で違法な薬物類であるとの認識で足りると解されています(最決平成2年2月9日)。ただし、覚せい剤であることの可能性が行為者の認識から排除されていた場合には、覚せい剤所持等の故意を認めることはできないと解されます。
記述4において、甲は、身体に有害で違法な薬物類であるとの認識はあったものの、覚せい剤や麻薬類ではないと認識していたのであるため、覚せい剤取締法違反(覚せい剤所持)の罪の故意は認められません。したがって、記述4は誤っているといえます。 

5 正しい
最高裁は、認識していない人に対して結果が生じたとしても、およそ人に対する結果発生の危険を認識していれば、故意を認められるという見解を採っていると解されています(法定的符合説・最判昭和53年7月28日)。
この立場からは、記述5において、甲にはAはもちろんのこと、Bに対する殺人罪の故意が認められることになります。したがって、設問は正しいといえます。 


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