2025/05/29
バイオマス発電は再生可能エネルギーなのか?
再エネはCO2排出を伴わないというのが一般的な考え方です。
例えば太陽光や風力は、設備のライフサイクルとしてのCO2排出は別にすれば、発電時にはCO2排出はありません。
その再生可能エネルギーの1つに、バイオマス発電があります。
バイオマス発電では、バイオ燃料や木材ペレットなどを燃焼させて、エネルギーを得る。当然、燃焼時のCO2排出が伴います。
ところが、バイオマス発電では、バイオマス特有の一連の炭素循環があるため、炭素中立(カーボンニュートラル)である、という考え方をします。
日本政府も、2050年カーボンニュートラル達成に向けた取り組みの中で、バイオマスエネルギーの活用を推進しています。
ただし、その導入にあたっては、持続可能性を確保するための適切な政策や技術開発が求められます。
しかし、EUは2021年頃からバイオマス発電を問題視し始めました。
バイオマスエネルギーでは、木材を燃料として使ってから、再び木材として二酸化炭素が吸収されるまでに時間が掛かります。
EUではそこを問題視しているようです。
EUでは木材バイオマスのカーボンニュートラル性について、特にその時間軸に関する問題を重視する議論が高まっています。
EUが問題視している点
【時間差(タイムラグ)】
木材を燃焼させてCO2が排出されても、そのCO2が再び同じ量の木として吸収されるまでには長い年月がかかります。
特に、成長の遅い樹種や、皆伐(森林を一度に全て伐採すること)が行われた場合、炭素が再吸収されるまでに数十年から百年以上の時間を要する可能性があります。
【炭素負債(カーボンデット)】
伐採された木が吸収していたはずの炭素が失われ、新たな木が同量の炭素を吸収するまでの期間、大気中のCO2濃度は一時的に増加します。
この一時的なCO2増加を「炭素負債」と呼び、短期的な気候変動対策においては無視できない影響があります。
【持続可能性への懸念】
急激なバイオマス需要の増加が、持続不可能な森林管理や森林破壊につながる懸念も指摘されています。
特に、原生林や生物多様性の高い森林が伐採され、エネルギー用の木材として利用されることは、環境上の大きな問題です。
EUの対応
このような問題意識から、EUではバイオマスエネルギーの持続可能性基準を厳格化する動きが進んでいます。
【再生可能エネルギー指令(RED)の改正】
EUは、再生可能エネルギーの利用を促進するための指令であるREDを改正し、バイオマス燃料の持続可能性に関する基準を強化しています。
これには、温室効果ガス排出量の削減目標だけでなく、森林管理や土地利用に関する基準も含まれます。
【ライフサイクル全体の評価:】
バイオマスエネルギーの評価においては、燃焼時のCO2排出量だけでなく、栽培、収穫、輸送、加工といったサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量を考慮するようになっています。
【一次木質バイオマスの扱い】
特に、森林から直接伐採された木材(一次木質バイオマス)の利用については、環境団体や科学者から厳しい目が向けられています。
一部では、一次木質バイオマスを再生可能エネルギーの対象から除外すべきとの声も上がっています。
【森林管理の重要性:】
持続可能な森林管理を義務付けることで、バイオマス利用が森林の健全性を損なわないようにする取り組みが進められています。
これには、適切な伐採方法の採用、植林の義務化、生物多様性の保全などが含まれます。
日本の状況
日本でも、バイオマスエネルギーの導入が進められていますが、EUと同様の問題意識を持つ専門家や環境団体が存在します。輸入木質ペレットへの依存度が高い現状や、持続可能性の確保に関する議論は、今後の重要な課題となるでしょう。
結論として、EUが木材バイオマスの時間軸に関する問題を重視しているのは、カーボンニュートラルという概念が、必ずしも短期的な気候変動対策に有効とは限らないという認識に基づいています。持続可能なバイオマスエネルギー利用を実現するためには、時間軸を考慮したライフサイクル評価や、厳格な持続可能性基準の導入が不可欠と言えるでしょう。