2025/05/22
事故&インシデントを分析するVTA法とは何か?
VTA法(時系列要因分析手法)とは何か?
事故やインシデントが職場で繰り返される背景には、「再発防止策の不徹底」があります。多くの現場では事故報告書は作成されるものの、実態把握や本質的な原因分析が不十分で、表面的な対応にとどまってしまうことが少なくありません。
この課題に応えるのが、「VTA(Variation Tree Analysis)」という手法です。日本語では「時系列要因分析手法」とも呼ばれます。
VTA法が必要な理由
VTAの導入は、安全マネジメントにおいて極めて重要です。なぜなら、
人は誰でも間違える(ヒューマンエラー)
自然の法則は変えられない
すべての事業には固有の危険性がある
――という**「三つの真理」**を前提に、安全管理を徹底する必要があるからです。
事故の原因は決して単一ではなく、複数の要因が**「事象の連鎖」**として絡み合っています。従来の分析では、直近の当事者に責任を押し付けることが多いですが、それでは根本的な解決にはなりません。
VTA法の基本的な考え方
VTAは、事故やインシデントの発生プロセスを時系列で追跡し、人の判断や行動が「通常から逸脱した瞬間」を洗い出します。この逸脱が事故の引き金になるため、“逸脱”の流れを図式化するのがVTAの核心です。
重要なのは、責任追及ではなく、**「対策指向」**であること。関係者が話しやすい環境を整え、真の原因に迫るため、ヒューマンファクターズの視点で多角的に分析します。
VTAの特徴と進め方
VTAは次のような特徴を持ちます:
人間行動中心の時系列分析
通常からの逸脱を抽出
責任追及は行わず、対策立案が目的
簡易な表現でプロット
多様な立場の分析者がチームで検討
推定ではなく事実ベース
図は「andゲート」のみを使用
具体的には、次のステップで進めます。
1)時系列事象整理
事故に至るまでの判断や行動を時系列で洗い出します(例:5W1Hで整理)。
2)プロット作成
変動要因(ノード)を簡潔に書き出し、時間軸と関係者軸でツリー化します。
3)説明欄を活用
短い表現ではわかりにくい場合、右側に詳細な説明を加えます。
4)関連性を可視化
ノード間の因果関係を→で結び、どのような流れで事故が起きたかを視覚化します。
5)問題点の抽出
「排除ノード(これがなければ事故は防げた)」を特定し、問題点を丸印やブレイク線で示します。
VTAの適用事例
例として、右折車がトラックの側方から来たバイクと衝突したケースが取り上げられています。
ベテラン運転手が右折中、歩道を注視していたため、側方からのバイクを見落とした。
VTAではこの「歩道に注意が偏り、発進方法が乱暴になった」点をノードとして抽出。
これにより、例えば「多段階発進の徹底」など具体的な対策が浮き彫りになります。
対策立案の流れ
VTAで得られた排除ノードや問題点に対しては、次のポイントを満たす対策を検討します。
実施可能性が高い
再発防止効果が見込める
具体的な行動指針がある
持続可能である
他の現場でも適用可能
法律・規則に合致
原因を的確に突いている
費用対効果が適正
さらに「なぜなぜ分析」やM-SHELモデル(マネジメント・ソフトウェア・ハードウェア・環境・チームメイトなどの視点)を使って、背後要因を深掘りし、再発防止策を多面的に強化します。
VTAのメリット
客観性の高い分析ができる
ヒューマンエラーの流れを可視化できる
関係者の協力を得やすい
現場に即した再発防止策を具体的に立案できる
従来型の事故報告とは異なり、問題の本質に迫る分析手法であり、産業現場だけでなく、航空・宇宙・交通など幅広い分野で活用が進んでいます。
まとめ
VTAは、「事故の再発防止」に特化した実践的な手法です。その要諦は:
ヒューマンファクターズに立脚
時系列で逸脱を見える化
責任追及ではなく対策重視
多角的な分析で本質を見抜く
事故の根絶は不可能でも、「再発防止」は管理の手腕次第で高められます。VTAはまさに現場に根ざした安全文化の創出ツールであり、建設現場を含むあらゆる職場の安全活動に応用できる強力な武器です。