技術士に求められるコンピテンシーも改訂を解説します

2024/12/19

技術士に求められるコンピテンシーも改訂を解説します

前回、コンピテンシーの改訂前と改訂後を紹介しました。
今回は、その意味を考えてみます。
今回は特に重要な「問題解決」と「コミュニケーション」の変更ポイントを解説します。


「問題解決」変更後

1. データ・情報技術の活用の追加

変更前:
「内容を明確にし,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること」と記載。

変更後:
「内容を明確にし,必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し,調査し,これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること」と記載。

ポイント:
データ・情報技術(IT)の活用が明示されました。これにより、技術士がデータ分析やデジタルツールを活用して問題を定義・分析するスキルを持つことが求められています。
これには、AI、ビッグデータ、IoTなどの最新技術を用いた問題解決プロセスが含まれる可能性があります。
現代の技術士に求められるデータリテラシーや**デジタルトランスフォーメーション(DX)**対応能力が反映されています。


2. 多角的な視点の強調

変更前:
記載なし。

変更後:
「多角的な視点を考慮し,ステークホルダーの意見を取り入れながら」と記載。

ポイント:
問題解決において、複数の視点を取り入れる重要性が明確化されました。技術的、経済的、安全性などの側面だけでなく、社会的視点や環境的視点も考慮する必要があります。
ステークホルダー(利害関係者)の意見を取り入れることが追加され、合意形成や調整能力がより重視されています。
これは、問題解決プロセスにおける透明性や協調性を反映した改訂です。


3. ステークホルダーの意見を反映

変更前:
特に記載なし。

変更後:
「ステークホルダーの意見を取り入れながら」と記載。

ポイント:
問題解決のプロセスに、関係者の意見を反映する仕組みが求められるようになりました。
技術士が解決策を合理的に提案する際、多様な関係者とのコミュニケーションが必要であることが強調されています。


4. 変更の背景:社会的要請と技術革新への対応

今回の変更は、以下の背景を反映していると考えられます。


デジタル化の進展:
データ分析やAI技術が進歩し、技術士がこれらを活用して複雑な問題を解決する能力が求められている。

多様なステークホルダーの存在:
グローバル化や地域社会の多様性に対応するため、利害関係者の意見を考慮することが求められている。

持続可能性や透明性の重要性:
SDGsなどの国際的な目標に沿った、環境・社会に配慮した問題解決が必要とされる。


「コミュニケーション」変更後


1. 情報技術の活用を明記

変更前:
記載なし。

変更後:
「情報技術を活用し,口頭や文書等の方法を通じて」と記載。

ポイント:
情報技術(IT)の活用が追加されました。現代ではリモート会議、メール、チャットツール、AIアシスタントなどを活用したコミュニケーションが一般化しています。
技術士として、デジタル技術を駆使して効率的かつ的確に意思疎通を行うことが求められており、ITリテラシーの重要性を強調した改訂です。


2. 包摂的な意思疎通

変更前:
「明確かつ効果的な意思疎通を行う」と記載。

変更後:
「明確かつ包摂的な意思疎通を図り,協働する」と記載。

ポイント:
「効果的」から「包摂的」に変更され、多様な立場や価値観を尊重し、包括的なコミュニケーションを行う姿勢が求められるようになりました。
包摂的な意思疎通には、異なる文化や背景を持つ人々の意見を尊重する態度が含まれており、より柔軟で多様性に配慮した対応が重要視されています。


3. 協働(コラボレーション)の強調

変更前:
特に記載なし。

変更後:
「包摂的な意思疎通を図り,協働すること」と記載。

ポイント:
単に意思疎通を行うだけでなく、関係者との「協働」が重視されています。これは、技術士が関係者と共同して問題解決やプロジェクトを推進する役割を担うことを反映しています。
技術士のリーダーシップやチームワークの必要性がさらに強調されています。


4. 用語の整理とグローバルな視点の継続

変更前:
「一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え,現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること」と記載。

変更後:
変更なし。

ポイント:
海外での業務における語学力と文化的多様性の理解に関する記述は変更されていませんが、「包摂的」という概念が追加された背景を考えると、海外業務においてもより柔軟かつ包括的な態度が期待されていると解釈できます。


5. 変更の背景:包摂的社会の推進

「包摂的」という言葉の導入は、技術士に求められるコミュニケーションが、単に情報伝達や調整に留まらず、社会の多様な価値観を受け入れる重要な要素であることを示しています。この考え方は、以下の現代的な背景を反映しています。
SDGs(持続可能な開発目標)の「誰一人取り残さない」理念。
多文化共生社会の形成。
心理的安全性を重視した組織運営。


No Image 匠 習作(たくみ しゅうさく) プロフィール

1962年生まれ。北海道函館市出身。本名は菊地孝仁。1988年より医療機器メーカーに勤務し、1991年20代で工場長に就任する。2014年までの23年間、医療機器製造工場の生産管理、人材育成、生産技術に携わる。2012年技術士機械部門、総合技術監理部門を同時に合格し、2016年に独立。

次世代のエンジニアを育てるべく、技術士試験対策講座を主催する。日本で初めてグループウェアを使った通信講座であり、分かりやすい解説、講師と受講者1対1を大事にする指導で人気講座となる。また、科学技術全般を、一般の人・子供向けに分かりやすく説明するサイエンスカフェなども自主開催。機械学会・失敗学会では、事故事例の研究などを行い、これも一般の人向けにセミナーなども開催している。

匠習作技術士事務所代表技術士
プロフェッショナルエンジニア養成コンサルタント、医療機器業界転進コンサルタント、医工コーディネーター日本技術士会会員・日本機械学会会員・失敗学会会員、人工知能学会会員、日本医工ものづくりコモンズ会員、日本シャーロックホームズクラブ会員、放送大学大学院在学中

『講師匠習作の技術士応援ブログ』は、スタディング受講者様へお送りしたメールマガジンの内容をウェブ用に一部抜粋・編集して掲載しております。


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