2023/10/05
技術者倫理を考えてみる
技術者倫理の研究で有名な札野順(現:早稲田大学大学総合研究センター教授)は、その著書「新しい時代の技術者倫理」(放送大学)の中で「技術者倫理の4つのレベル(メタ,マクロ,メゾ,ミクロ)と技術者倫理の必要性」を説いています。
~~~~以下引用~~~~
表3-1 技術者倫理の四つのレベル
レベル 対象
Meta : 技術そのものの本質とそこから導かれる技術者のあるべき姿
Macro : 技術と社会の関係とそこから導かれる技術者のあり方
Meso : 技術に関連する制度・組織およびそれらと個人との関係
Micro : 技術者個人(あるいは個々の企業など)とその行動
技術者倫理に関わる諸問題を検討する際,しばしば議論が錯綜する場合がある。その原因は, この四つのレベルの問題群が,同時に混乱して扱われることにある。例えば,耐震構造偽装事件において,何故,元一級建築士があのような問題を起こしたのかを検討するにあたり,建築士の個人としての意思決定(ミクロ・レベル)と,構造計算を依頼した企業との関係(メゾ・レベル)や日本の建築士制度(メゾ・レベル),あるいは,マンションなどの建築物とそれを購入し住む人たちの安全や経済の問題(マクロ・レベル)を整理して検討すると,問題の本質を理解しやすい。
この四つのレベルを意識することは重要である。読者も,これらを常に意識しながら,技術者倫理について考察を進めていただきたい。
~~~~~引用終わり~~~~~
要するに、倫理に関する問題が発生した場合、
建築士の個人としての意思決定(ミクロ・レベル)
構造計算を依頼した企業との関係(メゾ・レベル)
日本の建築士制度(メゾ・レベル),
あるいは,マンションなどの建築物とそれを購入し住む人たちの安全や経済の問題(マクロ・レベル)を整理して検討すると,問題の本質を理解しやすい。
という説明です。
何かを分析するとき、その対象を要素に分解して、比較する。
理工系の方ならこれが還元主義的な分析手法であることはすぐに分かると思います。
なので、札野先生の解説は工学倫理の分野として当然なのでしょう。
ただ、私は倫理の問題を要素還元主義で分析しようという考え方に違和感を覚えます。
倫理や道徳は要素に還元できるのか? という根源的な問題があるからです。
ところが、残念ながら我々エンジニアは、何かを分析したり調査したりするときに、要素に還元してそれをひとつひとつ調べ上げ、再び構築するという方法しか持っていないのです。
これは、ある意味驚くべきことです。
分野や対象に係わらず、要素還元主義以外の方法がないのです。
そのため、対象が倫理的な問題であっても、我々はいつものように要素還元主義でそれを分析する訳です。
話を試験のことに戻します。
口頭試験の準備を進めている皆さんへ、ときどきですが口頭試験の質問で時事問題(主に倫理に関する)に関する質問があります。
そのとき、試験委員が知りたいのは、受験者さんがその「ニュース」あるいは「時事問題」を知っているかどうかではありません。
その問題に対しどんな意見を持っているのかを知りたいのです。
自然災害に対しても同じです。
皆さんは、これから試験が終わるまで、事実としてのニュースを頭に入れるのではなく、その事実に関して、深く考えるようにして下さい。
そのときの手法に要素還元主義を使うのも仕方がないでしょう。
ただ、要素還元主義にも限界があることを知って、使うようにして下さい。