2019/12/26
『1.1 チャーチルのメモ
1940年、潰滅の危機に瀕した英国の宰相の座についたウィンストン・チャーチルは、政府各部局の長に次のようなメモを送った。
われわれの職務を遂行するには大量の書類を読まねばならぬ。その書類のほとんどすべてが長すぎる。時間が無駄だし、要点をみつけるのに手間がかかる。同僚諸兄とその部下の方々に、報告書をもっと短くするようにご配意ねがいたい。
(ⅰ)報告書は、要点をそれぞれ短い、歯切れのいいパラグラフにまとめて書け。
(ⅱ)複雑な要因の分析にもとづく報告や、統計にもとづく報告では、要因の分析や統計は付録とせよ。
(ⅲ)正式の報告書でなく見出しだけを並べたメモを用意し,必要に応じて口頭でおぎなったほうがいい場合が多い。
(ⅳ)次のような言い方はやめよう
「次の諸点を心に留めておくことも重要である」
「…… を実行する可能性も考慮すべきである」。
この種のもってまわった言い廻しは埋草にすぎない。省くか、-語で言い切れ。
思い切って、短い、パッと意味の通じる言い方を使え。くだけすぎた言い方でもかまわない。
私のいうように書いた報告書は、一見、官庁用語をならべ立てた文書とくらべて荒っぽいかもしれない。しかし、時間はうんと節約できるし、真の要点だけを簡潔に述べる訓練は考えを明確にするにも役立つ。』
(出典:木下是雄著作「理科系の作文技術」中公新書1981年)
木下是雄著作「理科系の作文技術」は、論文作法に関する定番、あるいみバイブルです。
技術士試験を受験する人は、必読です。また、厳しいことを言いますが、もしこの本のことを知らないのであればその時点で勉強不足です。
この本の初版は1981年9月、私の手持ちは2010年6月の69版と2011年5月の71版です。
最初に購入したのは学生時代でしたから、1982~3年の頃だと思います。
現在も版を重ねるロングセラー実に40年近く読まれ続けている本です。
上で引用したのは1.序章の「チャーチルのメモ」という箇所です。
この文章を読んでいる人はすべてこの本を持っていると信じて、以下、説明します。
この本は、理科系の学生、若い研究者向けに書かれました。
要するに、論文の書き方を分りやすく、そして当時としては斬新な意見を載せて書き上げられています。
パラグラフライティングのことなどは、恐らくこの本が日本で初めて取り上げたと思います。
この本でも繰返し述べられていますが、もって廻った言い回しは技術士試験の解答でも厳禁です。短く言い切って下さい。
「~~ではないかと考える。」「~~ではないだろうか。」この二つなどは最悪と心得て下さい。
技術士試験の解答は、与えられた課題(問題文)に対するあなたの意見とその根拠の塊です。
博士や修士の論文は、その課題(問題文に相当する部分)を自分で考え、仮説とします。
しかし、試験では、それは試験サイドから与えられます。
受験者は、意見と根拠を述べれば良いのです。
ただし、令和元年の試験からは、その解答で技術士のコンピテンシーが表現されていなければならなくなりました。ですから、コンピテンシーをよく理解してコンピテンシーを表現するように文章を重ねて下さい。
次回も続きます。
匠 習作(たくみ しゅうさく) プロフィール
1962年生まれ。北海道函館市出身。本名は菊地孝仁。1988年より医療機器メーカーに勤務し、1991年20代で工場長に就任する。2014年までの23年間、医療機器製造工場の生産管理、人材育成、生産技術に携わる。2012年技術士機械部門、総合技術監理部門を同時に合格し、2016年に独立。 次世代のエンジニアを育てるべく、技術士試験対策講座を主催する。日本で初めてグループウェアを使った通信講座であり、分かりやすい解説、講師と受講者1対1を大事にする指導で人気講座となる。また、科学技術全般を、一般の人・子供向けに分かりやすく説明するサイエンスカフェなども自主開催。機械学会・失敗学会では、事故事例の研究などを行い、これも一般の人向けにセミナーなども開催している。 匠習作技術士事務所代表技術士 |
『講師匠習作の技術士応援ブログ』は、スタディング受講者様へお送りしたメールマガジンの内容をウェブ用に一部抜粋・編集して掲載しております。