2026/09/10
9月に入り、秋の気配が少しずつ深まる季節となりました。筆記試験の終了からおよそ2ヶ月が経過し、11月上旬の合格発表まで「残り約1ヶ月半」。この「宙ぶらりんな待ち時間」に焦りを感じたり、モチベーションの置き所に迷ったりしてはいませんか?
試験対策という「義務としての勉強」から解放された今こそ、視点を大きく切り替えるチャンスです。この長い待ち時間を、技術者としての器を大きく広げる「最高の読書期間(教養への投資期間)」として活用しましょう。
なぜなら、技術士とは単に目の前の技術計算ができる人ではなく、社会の課題を見抜き、人間や歴史への深い洞察を持って技術を適用できる「総合的な技術人」だからです。
技術士法および日本技術士会の指針において、技術士には「継続研さん(CPD)」が強く求められます。技術革新が急速に進み、社会構造が複雑化する現代において、「学びを止めた技術者」は瞬く間に時代に取り残されてしまうからです。
このCPDの意識は、合格通知を受け取ってから身につけるものではありません。結果を待つ今の時期に自発的な学びを深めているかどうかが、11月からの口頭試験で滲み出る「技術者としての品格」を決定づけます。
口頭試験の「継続研さん」の試問でも、「試験が終わった後、結果が出るまで何をしていましたか?」と問われた際、「ただ結果を待っていました」と答える人と、「技術の背景にある社会構造や人間理解を深めるため、専門外の読書を重ねていました」と答える人では、どちらが技術士にふさわしいかは明白です。
合格発表までの読書期間には、単なる技術マニュアルやノウハウ本ではなく、思考の骨格を鍛える本に手を伸ばしてみましょう。お勧めの3つの領域(知の扉)をご紹介します。
『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ)や『イシューからはじめよ』(安宅和人)など。
テクノロジーが社会や人間関係をどのように変容させてきたのか、そもそも「解くべき本質的な問い(イシュー)」とは何かを大局的な視点から学ぶことで、論文や口頭試験における課題設定能力の深みが劇的に変わります。
『失敗は予測できる』(中尾政之)や『ガリレオの指』(ピーター・アトキンス)など。
過去の重大事故やヒューマンエラーのプロセスを分析する「失敗学」に触れることで、技術の持つリスクと、公衆の安全を守るための「技術者倫理」の重みを再認識できます。
『論文・レポートの基本』(石黒圭)や『古文研究法』(小西甚一)など。
「抽象化と具体化の往復」や「一文一義」の論理構造を客観的に学ぶことで、口頭試験での簡潔な回答力や、今後の実務報告書のクオリティが飛躍的に高まります。
本を読む際のポイントは、書かれている内容をただ暗記することではありません。「この著者の主張に対し、自分の専門技術者としての意見はどうだろうか?」「自社の現場に置き換えるとどのような課題があるか?」と自問自答することです。
本との対話を通じて得られた「自分なりの視点」こそが、技術士に求められる多面的な思考力(コンピテンシー)そのものです。
秋の夜長、テレビやSNSの無益な情報から一歩距離を置き、1冊の本とじっくり向き合ってみてください。その濃密な思考の時間が、11月に合格通知を手にしたあなたを、より誇り高い技術者へと成長させてくれるはずです。
| 匠 習作(たくみ しゅうさく) プロフィール
1962年生まれ。北海道函館市出身。本名は菊地孝仁。1988年より医療機器メーカーに勤務し、1991年20代で工場長に就任する。2014年までの23年間、医療機器製造工場の生産管理、人材育成、生産技術に携わる。2012年技術士機械部門、総合技術監理部門を同時に合格し、2016年に独立。 次世代のエンジニアを育てるべく、技術士試験対策講座を主催する。日本で初めてグループウェアを使った通信講座であり、分かりやすい解説、講師と受講者1対1を大事にする指導で人気講座となる。また、科学技術全般を、一般の人・子供向けに分かりやすく説明するサイエンスカフェなども自主開催。機械学会・失敗学会では、事故事例の研究などを行い、これも一般の人向けにセミナーなども開催している。 匠習作技術士事務所代表技術士 |
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