2025/10/23
技術士試験は工学の専門性を問う国家試験でありながら、出題形式は「文章による問い」に対して「文章で答える」記述式です。したがって、どれほど技術的な知識を持っていても、問題文の意図を正しく読み取れなければ、解答を的外れなものにしてしまいます。ここで鍵となるのが「読解力」です。本記事では、エンジニアが技術士試験に向けて読解力をどのように鍛えていけばよいのかを解説します。
読解力とは単に文字を追って意味を理解することではありません。文章の背景にある意図を読み取り、情報を取捨選択し、矛盾や含意まで踏み込んで解釈する力です。さらに言えば、コミュニケーション全般に共通する能力でもあり、相手の立場や文脈を理解する力に直結します。技術士試験においては「問題文の趣旨を外さずに答える」ための基盤となる能力です。
国際的な学習到達度調査であるPISAの定義では、読解力とは「自らの目標を達成し、社会に参加するために、テキストを理解し、利用し、評価し、熟考し、これに取り組む力」とされています。つまり、単なる知識の再現ではなく、知識を応用しながら能動的に使う力が問われています。
PISAの2019年調査結果では、日本の読解力は前回8位から15位に後退しました。特に弱かったのは「情報を探し出す力」と「評価・熟考する力」です。これは技術士試験の解答力不足とも直結しています。問題文から条件を正確に拾えない、提示された情報の真偽や重要度を見極められないといった弱点につながるからです。
背景には、スマートフォンの普及による読書量の減少、情報リテラシー教育の不足、SNSに見られる一方的な情報発信習慣などが挙げられます。短く軽い情報に慣れるほど、長い文章や複雑な文脈を読み解く耐性が低下してしまうのです。
第一に、情報収集力が格段に向上します。試験問題の条件は細部にわたり指定されており、その見落としが不合格の原因となります。読解力があれば、問題文から必要な情報を的確に抽出し、不要な部分に引きずられません。
第二に、論理構築の精度が上がります。読解力を持つ人は、相手の意図を正しく理解し、それに沿った回答を組み立てられます。これは単に「正しい知識」を書くだけでは不十分で、「題意に沿った解答」が求められる試験において非常に重要です。
第三に、社会人としての実務力にも直結します。報告書の要点を素早くつかむ、顧客や上司の指示の真意を理解する、会議の論点を整理する。これらはすべて読解力が支えています。試験勉強を通じて読解力を鍛えることは、実務にも還元される大きな投資といえます。
では、どのようにして読解力を高めればよいのでしょうか。ここでは3つの方法を紹介します。
1. 論理的思考力を鍛える
文章を読むときに「なぜそうなるのか」「因果関係はつながっているか」「前提条件は何か」と自問しながら読む習慣を持ちましょう。これは論理的思考のトレーニングです。技術士試験の問題文でも、背景説明・制約条件・設問要求が必ず含まれており、それを論理的に整理できなければ正しい解答は書けません。普段から新聞記事や専門書を読み、「主張」「根拠」「結論」を三段階で整理する訓練が効果的です。
2. 長文を読む習慣を持つ
短いネット記事に慣れていると、試験問題の1,000文字を超える文章を読むだけで疲れてしまいます。意識的に本や論文を読み、長文に耐性をつけましょう。特に技術系の専門書は、因果関係や理論展開が複雑なため、試験問題を読む力の養成につながります。最初は要点をメモしながら読むと効果的です。
3. 要約とパラフレーズを繰り返す
読んだ内容を自分の言葉で要約し直すことは、理解度を確認する最良の方法です。さらに、要約した内容を「もし他人に説明するならどう伝えるか」とパラフレーズしてみると、理解の浅さや論理の飛躍が浮き彫りになります。試験勉強の過程で、過去問題の設問を自分なりに言い換える訓練を取り入れると効果的です。
技術士試験の問題文は、一見すると長く複雑ですが、設問の核は明確です。「何を問われているのか」を把握するためには、以下の手順を徹底すると良いでしょう。
これにより「題意から外れない」「論理的に一貫した解答を書く」ことが可能になります。
読解力は、技術士試験における最初の関門であり、全ての解答の基盤となる力です。日本全体で低下が指摘される中、エンジニアにとってはなおさら意識的に鍛える必要があります。論理的思考の訓練、長文読解への耐性、要約とパラフレーズの繰り返し。この3つを実践することで、確実に力は伸びていきます。
試験勉強を単なる知識暗記で終わらせず、文章の意図を読み取るトレーニングとして取り組むこと。これこそが、合格に近づく最短ルートであり、実務力を高める最大の効果でもあるのです。
| 匠 習作(たくみ しゅうさく) プロフィール
1962年生まれ。北海道函館市出身。本名は菊地孝仁。1988年より医療機器メーカーに勤務し、1991年20代で工場長に就任する。2014年までの23年間、医療機器製造工場の生産管理、人材育成、生産技術に携わる。2012年技術士機械部門、総合技術監理部門を同時に合格し、2016年に独立。 次世代のエンジニアを育てるべく、技術士試験対策講座を主催する。日本で初めてグループウェアを使った通信講座であり、分かりやすい解説、講師と受講者1対1を大事にする指導で人気講座となる。また、科学技術全般を、一般の人・子供向けに分かりやすく説明するサイエンスカフェなども自主開催。機械学会・失敗学会では、事故事例の研究などを行い、これも一般の人向けにセミナーなども開催している。 匠習作技術士事務所代表技術士 |
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