国税徴収法の本試験では、暗記だけでなく、立法趣旨や条文の存在意義の理解が必須になってきているとスタディング税理士講座 国税徴収法担当の伊藤誠先生は言います。今回は、税理士試験の試験科目の一つ、国税徴収法の合格のポイントについて伊藤先生に教えていただきました。
国税徴収法は理論が重視される科目です。第2問の計算問題でも、そのうちの配点としては、半分以上は理論の記述になるので、国税徴収法の本試験問題の7~8割は理論問題から構成されています。逆に言えば、計算問題のもととなる理論をしっかり覚えていけば、7~8割は正解できると言えるでしょう。計算問題でも計算が合っているだけでなく、根拠をしっかり示しながら答案を作成する必要がある、ということになります。 また最近は、立法趣旨を問う問題が散見されるようになりました。「この法律は何のためにあるのか」「この条文は誰のためにあるのか」を理解しているかどうかが問われる問題が増えてきた気がします。つまり、暗記一辺倒ではなくなってきたということです。もちろん暗記は必要・必須なのですが、暗記した内容をしっかりと頭の中で理解しているかどうかを確認するような問題になってきていると感じます。
毎年ではないのですが、「自信を持って答えられるかどうか」が問われる問題が出ることです。
たとえば国税徴収法26条で、いわゆる「ぐるぐる回り」と言われる規定があります。これは、差し押さえた財産について、国税を含めて債権者が三者以上いる場合に、債権を回収できる順番(優先順位)がぐるぐる回りになっている規定です。
優先順位が、A>B>C>A、というように「じゃんけん」のようになっている状態です。
この規定の考え方を使って解答しなければならない問題が何年かに1回出ます。ところがある年に、ぐるぐる回りで解くのかどうか判断に迷う問題が出ました。問題をきちんと読めばぐるぐる回りにならないことがわかるのですが、26条を問う問題がそろそろ出そうな時期でもあったため、多くの受験生が解き方に迷ったと思います。
その問題は結局26条の考え方を使わずに解くべき問題だったので、26条で解いた人はほとんど落ちていました。26条で解く方が時間も手間もかかりますし、第一、26条で解いてはいけないのですが、本試験という極限状態の中で「26条で解くものだ」と頭の中で勝手に解釈してしまうんですね(ちなみに、各債権者に対する配当額は、26条を使ってもそれ以外で解いても計算結果は同じになります)。
だから、解答を書き始める前に、問題文をじっくり読んで解答の方向性を決めてから書き始めるほうがいいですね。しっかり勉強していれば、問題文を2~3回読んで方向性を決めて、解答の流れ(見出し)を計算用紙に書いてから書き始めても、2時間の中で合格できる質と量は十分に書けますから。
国税徴収法は7~8割は理論なので、まず理論をしっかり固めることですね。スタディングでリリースされた順に講義動画を観てほしいのですが、次の単元に移るまでのタイミングで理論をさっと覚えておきましょう。「今覚えても試験までに忘れてしまうから、あとで覚えよう」と思わないこと。本試験までに、「覚えたり忘れたり」を何度も繰り返すことで記憶が定着していくのです。
勉強しない日を作らないで、常に何かしら勉強内容に触れることですね。
私は上場企業の経営企画部門に勤務していたので、仕事がそれなりに忙しかったんですよ。特に4~6月は、6月末の株主総会に向けて多忙を極めていました。そんな中でも、毎日の通勤時間やお昼休み、土日を勉強時間にあてていましたね。
合格する秘訣として、スタディングで提供している各コンテンツを有効に活かしてほしいのですが、特に「トレーニング」をもっと積極的に活用してほしいです。
ひとつひとつの単元について、どういう切り口から問題が構成されるのかがわかります。講義動画を視聴したら、そこで出てきた理論をしっかり暗記しつつ、トレーニングも解いてみる。解けなかったら何度もやってみる。そのように使ってみてください。もちろん、実力テストや直前対策講座は満点を取れるようになるまで復習してほしいです。
私が今まで見てきた中では、勉強したことをきちんと理解しながら表現できている人、今日勉強したことは今日理解する、という人は合格しています。それが一番効率的ですからね。理解を先延ばしにする人は合格が難しいでしょう。
また解答用紙を見ていると、「私の言いたいことはこんな感じなんだけど、わかってくれますよね」という気持ちが伝わってくるようなちょっと甘えた答案を書く人、核心でない文章がだらだら続いているため理解しているのかどうかがわからない答案を書く人も、合格点はもらえないでしょう。
税理士試験は各科目とも受験生の約9割が落ちる試験なので、私は「採点者と受験生の1対1の勝負」だと思っています。むしろ「出題者が求めている解答はこうでしょう?」と突きつけるような解答のほうが好印象ですね。
まず最初に結論を書いて、「私はこれについてこう説明していきますよ」と2~3行書いてから、本文を書き始める。そうすると、採点者は「この人は理解できているな」とわかりますし、本文で大きな間違いやミスがなければ合格点をもらえる可能性も高くなるでしょう。
合格する人としない人の差は、おそらく点数でいうと2~3点しかありません。合格基準点あたりの人数が一番多く、この基準点プラスマイナス1~2点で明暗が分かれるというケースが多いと思います。
国税徴収法の試験は、基本的なところをきっちり解答していけば合格できる試験ですが、合格基準点をクリアするための最後の1点2点をどう取っていくかがカギになります。これは、言ってみれば普段からどれだけ勉強に没頭できているかどうかで決まります。
たとえば、陸上の長距離走でいうと、最初のうちは余力を保ちながら走りますが、あと数百mのあたりでラストスパートをかけますよね。ゴールするときにはスタミナはほぼ残っていないはずです。税理士試験もそれと同じで、最初は余力を保ちながらも、試験直前期は勉強に没頭して試験で完全燃焼できれば合格が近づくと思います。
本番の試験後に余力があった、スタミナが残っていた、なんてことがないようにしてください。試験の2時間で全てをぶつけてください。途中退席なんて、もっての外です。
モチベーションを維持するためには、合格した自分をイメージすることが大事です。
会計事務所や税理士事務所にお勤めの方であれば、「あの先生のようになりたい」という理想の税理士さんを見つけてみるといいですね。必ずしも自分が勤務する事務所でなくとも、物腰がスマートであるとか、言葉遣いが素敵だとか、目指す税理士像を具体的にするといいですね。
前回もお話したように、世間には税理士試験の勉強(合格)の大変さを知っている方は意外と多いものです。その分、税理士に対する社会的評価は高いので、税理士試験に合格すれば皆さんが想像する以上に素晴らしい世界が待っています。それを楽しみにしていてください。
学習環境については、整え方は人それぞれなので、時間のあるうちに集中できる場所を見つけておきましょう。
私は家だとなかなか集中できなかったので、図書館によく行っていましたね。神奈川県立図書館と横浜市立図書館でしたが、両館にある「国税徴収法」に関する書籍は、片っ端から読みました。ちょっと読みすぎ(寄り道しすぎ)だったかもしれません(笑)。
試験の10日くらい前からは試験日から逆算して、「やるべきこと」(勉強内容)を決めます。何を勉強するかは受験生それぞれの充てられる時間と相談して、緻密なスケジュールを組んでください。
もちろん、前日や試験当日の朝にやることも決めておきます。私は比較的交通の便の良いところに住んでいるのですが、試験当日に電車の遅延を気にするのがイヤで、試験前日は、試験会場に歩いて行ける距離にあるホテルに泊まっていました。
「試験前日は緊張して眠れなくて大変だった」という声も聞きますが、ひと晩くらい眠れなくても、試験本番中に睡魔が襲ってくるでしょうか?極限まで緊張しているので、試験中に眠くなる心配はほぼないでしょう。
なので、前夜とはいえ眠れないときは「勉強時間ができた」と思って理論を1つでも2つでも復習してみてはいかがでしょうか。
「税理士になる」と決めたなら、合格するまで初志貫徹してください。そういう人の気迫は解答用紙から採点者に伝わります。
税理士試験にチャレンジしたことのある人は意外に多いですね。しかし1科目も合格せずに「ギブ」しちゃった人もいますし、3~4科目受かっているという人も少なくありません。
しかし、やはり5科目合格してこそ税理士になれるもの。そこまでの道のりは本当に大変ですが、合格後には素晴らしい世界が待っていることを楽しみに勉強に励んでください。
みなさんの合格の報告を楽しみにしています。
伊藤 誠 (いとう まこと) プロフィール
1962年生まれ。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。 2004年から大手資格学校にて税理士講座・国税徴収法の受験指導を行う。 理論暗記が中心で、単調になりがちな国税徴収法の勉強にあって、国税通則法を含めて各項目や条文の意義、内容、趣旨の「理解」を中心とした講義により、多数の合格者を輩出。 特に、単なる「本試験出題予想」のみならず、徹底的な出題傾向分析と法律解釈から、本試験問題作成者の「出題意図」を汲んだ解答を作成するための、実戦的な実力テスト・直前テスト・本試験予想模試には定評がある。 |