スタディング税理士講座の国税徴収法担当の伊藤誠先生は、税理士の有資格者であり、なおかつMBAも取得されています。しかし、実務の社会ではMBA保持者を名乗るよりも、税理士の有資格者を名乗るほうが評価が高い場合もある、といいます。それはどういうことなのでしょうか。伊藤先生にじっくりとお話を伺いました。
大学を卒業後は約10年間、新聞記者をしていたのですが、その後ご縁があって慶應義塾大学のMBAコース(経営管理研究科)に入学しました。修了後は上場企業の経営企画部門に入社し、転職などもありましたが、ほぼ一貫して経営企画部門で中期経営計画や単年度の経営計画を策定したり、部門予算を編成したり、あるいは株主総会も含めてIRに関するする仕事をしていました。
2年前にサラリーマン生活を早めに終えて、現在は父親の経営する会社で監査役をつとめるかたわら、自分で合同会社を立ち上げて代表社員の職に就いています。
2003年から税理士の勉強をしていたのですが、ある日、某資格予備校が税理士講座のテキスト校正者を募集しているのを見て、興味を持ったことがきっかけです。新聞記者をしていたので、校正は苦手ではありません。会社員の立場ではありましたが、「アルバイト感覚で空いた時間にできるし、データのやり取りもパソコン上でできるようだ。だから、会社に迷惑をかけることもないだろう」と考え、応募してみました。
無事に採用されて、校正のお仕事を続けているうちに国税徴収法の講師が数年のうちに次々に辞めてしまいます。そこで、予備校から「すみません。伊藤さん、国税徴収法の講師をやってくれませんか」と声がかかったんです。一瞬「えっ」と驚いたものの、3秒後には「いいですよ」と返事をしていました。
いちおう、その3秒の間に頭をぐるぐる回転させて考えましたよ。「私、今サラリーマンだしなぁ」「やっていいのかなぁ」と。でも、当時の上司は非常にフランクな人だったので、「たぶん許してくれるだろう」と考えてOKしました(笑い)。
翌日、上司に話してみると、当時は営業のような仕事(財務コンサルで、クライアントを見つけるのも仕事でした)をしていたこともあって「それ、君の売上にできないかなぁ」「売上の数字になる方法はないのかなぁ」という答えが返ってきたんです。面白い会社と上司ですよね。「ああ、これは問題ないということだな」と解釈し、そこからおよそ10年間にわたる、サラリーマンと税理士講座講師の二足の草鞋を履く生活がスタートしました。
今でこそ、「副業してスキルアップ」「そのスキルを本業に活かして会社と社員がwin-win」などと、副業が推奨されるような時代になりましたが、当時はまだ現在で言う「積極的な意味での『副業』」という概念もない時代です。就業規則や職務規程をよく読むと副業禁止規定はいちおうあるのですが、実際に副業しようとする人はほぼいませんでしたし、そもそも誰もそんなことは気にしていませんでした。なので、会社としては特に問題もなかったんですよね(多分)。
前に講師をしていた予備校でもともと受講生の少なかった国税徴収法講座(そもそも国税徴収法は受験者も少ない科目でした)が、2015年頃に講座自体が終了してしまったんです。講師業は副業だったので、私としては終了しても特に問題はありません。なので、講座終了後は再び会社員に専念する生活に戻ったのですが、スタディング税理士講座の講師の方から、「スタディングで今度、国税徴収法の講座を始めるから、講師をしてくれないか」という話をいただいたんです。
当時はスタディング税理士講座で会計科目2科目と法人税法・相続税法が開講しており、国税徴収法を開講すれば5科目そろうというところでした。しかもその当時は税理士試験全体の受験生が減る中で、国税徴収法の受験者だけが増加している、という状況でした。なので、国税徴収法講座の需要増加を見込んで、講師経験がある私に白羽の矢が立ったのではないかなと思います。
皆さんにぜひお伝えしたいのが、みなさんの想像以上に税理士の社会的評価は高いのだということです。
以前に在籍していた会社でファイナンスに関するプロジェクトがありました。一連の手続きは会社法や税法に基づいて行うのですが、規模が前例にないほど大きく、そこで発生する税制の特例が認められるのかなど、非常に微妙な点を抱えていました。もちろん、会社の経営企画部門の社員だけで一連の手続きの合理性・合法性を説明できることではありません。
そこで、勤務先が契約している法律事務所やコンサルティング会社の弁護士や公認会計士、税理士の多くの先生方や証券会社の担当者と議論をし、アドバイスをいただきながら手続きを行いました。その過程で、先生方に私が税理士の有資格者であることが知られるようになると、以降は、共通理解の部分というか、「資格者であれば知っているよね」的な内容は割愛して、核心の議論に集中できた、という経緯がありました。
税理士の有資格者ということは、それだけ税に関する確かな知識があるということなので、言っていることにも信ぴょう性があると相手の方は感じるんでしょうね。
私は慶應義塾大学でMBAを取得しましたが、MBAを持っているというだけでは、まずは「お勉強が好きだったんですね」という第一印象にとどまるんですよ。ちょっと悲しいことではあるのですが、世間的に見ればMBAの教育課程でどのような勉強・研究が為されているか分からない部分が大きいというのもあるとは思います。
一方で、「税理士試験に合格しています」と言うと、相手の自分に対する見方が変わります。また、任せられる仕事の内容も高度化・専門化するのは言うまでもありません。だから、そういうことも合格後の楽しみにしてもらいたいですね。
また、税理士試験の勉強を通じて得た知見を、事業にも活かせるところもメリットです。
先ほどお話したように、私は父親が経営している会社の監査役や自分の会社の代表をしているので、伊藤家の相続のことを含め、どういうスキームを組んでこれらの会社を経営していくかについて、考えていかなければなりません。そういうところも、税理士試験で得た知見やノウハウを活かせるところだなと思います。
税理士は、法人の決算が終わった後に各種の資料をそろえて申告書を作成し、データを税務署に送るという業務がまずは大事な仕事です。そういう仕事をメインにしている税理士さんは少なくないでしょう。
もちろん、そういうスタンスを取る方はそれでいいのかもしれません。しかし、企業の経営層に近いところで仕事をしている私としては、「今後はあなたの会社では、こういう経営政策を執ったほうがよいのではないですか」と積極的に提案できる税理士が増えてほしいんです。言い換えれば、「経営者と伴走できる税理士」、ですね。
クライアントさんの現業はもちろん大事ですが、新しい施策を構築することも大事。そういうことをしっかりアドバイスできる税理士さんはまだまだ少ないのではないでしょうか。スタディング税理士講座の受講生さんには、申告だけではなく、経営者から「経営のあれこれについても相談にも乗ってくれる、頼りになる先生だ」、と言われるような税理士になってほしいなと思います。
伊藤 誠 (いとう まこと) プロフィール
1962年生まれ。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。 2004年から大手資格学校にて税理士講座・国税徴収法の受験指導を行う。 理論暗記が中心で、単調になりがちな国税徴収法の勉強にあって、国税通則法を含めて各項目や条文の意義、内容、趣旨の「理解」を中心とした講義により、多数の合格者を輩出。 特に、単なる「本試験出題予想」のみならず、徹底的な出題傾向分析と法律解釈から、本試験問題作成者の「出題意図」を汲んだ解答を作成するための、実戦的な実力テスト・直前テスト・本試験予想模試には定評がある。 |