制限行為能力者制度に関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。なお,記述中の「取消し」は,すべて行為能力の制限による取消しのこととする。
ア 未成年者が買主としてした高価な絵画の売買契約を取り消した場合において,その絵画が取消し前に天災により滅失していたときは,当該未成年者は,売主から代金の返還を受けることができるが,絵画の代金相当額を不当利得として売主に返還する必要はない。
イ 成年被後見人が締結した契約をその成年後見人が取り消すには,その行為を知った時から5年以内にする必要があるが,意思無能力を根拠とする無効であれば,その行為を知った時から5年を過ぎても主張することができる。
ウ 被保佐人が売主としてした不動産の売買契約を取り消したが,その取消し前に目的不動産が買主から善意の第三者に転売されていれば,被保佐人は,取消しを当該第三者に対抗することができない。
オ 成年被後見人が契約を締結するに当たって,成年後見に関する登記記録がない旨を証する登記事項証明書を偽造して相手方に交付していた場合には,相手方がその偽造を知りつつ契約を締結したとしても,その成年後見人は,当該契約を取り消すことができない。
解答:1
ア 〇
制限行為能力による取消がなされた場合、制限行為能力者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負います。したがって,当該未成年者は,売主から代金の返還を受けることができますが,その絵画は取消し前に天災により滅失しており,現存利益はなく,絵画の代金相当額を不当利得として売主に返還することを要しません。
ポイント 制限行為能力者は、現に利益を受けている限度において返還すれば足ります。
イ 〇
成年被後見人が締結した契約をその成年後見人が取り消すには,その行為を知った時から5年以内にしなければなりません。他方,意思無能力を根拠とする無効であれば,その主張に期間の制限はないため,その行為を知った時から5年を過ぎても主張することができます。
ポイント 無効主張には期間制限はありません。
ウ ×
被保佐人が保佐人の同意を得ないで売主としてした不動産の売買契約は,取り消すことができ,取り消された売買契約は,初めから無効であったものとみなされます。そして,被保佐人は,この取消しの効果を善意の第三者に対抗することができます。
ポイント 行為能力の制限による取消は善意の第三者に対抗することができます。
エ ×
成年後見人には同意権はありません。したがって,成年被後見人が高価な絵画を購入する場合であっても,その成年後見人の同意を要せず,成年被後見人は,この売買契約を取り消すことができます。
ポイント 仮に成年後見人の同意を得て成年被後見人が行為をしても、その行為は取消し得る行為となります。
オ ×
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことはできません。しかし,制限行為能力者が詐術を用いた場合であっても,相手方が制限行為能力者であることを知っていたときは,制限行為能力者は,その行為を取り消すことができます。
ポイント 相手方の誤信があるかどうかに注意しましょう。